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新四天王会議①
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「はい、行ってらっしゃい。」
カノルは外で腕を組みながら黒い馬車を見つめていた。
ドストミウルが仕事で出かけるというので見送ってやろうと外に出たのだが、なんだかそわそわしてなかなか出掛けようとしない事に若干の苛立ちを覚えている。
「うむ、なるべく早く帰る。敵襲は無いとは思うがあればゲイルと、城から呼び寄せたスケルトンの隊長ズッツを戦線に立たせてくれ、じきにギャリアーノも来てくれると思うが…」
「わかった、わかったってそれは何回も聞いた。屋敷は任せろ、珍しく仕事なんだから早くいけよ。」
「うむ、そうか…」
また馬車の前をまわるように漂ってから不意に止まり、ドストミウルはカノルを見つめた。
「なにさ、まじまじと。」
「こうやって愛する人に見送られて仕事に向かうのは心地が良いな。」
「…早くいけよ!!」
カノルは蹴り飛ばすようにドストミウルを送り出した。
今日は魔王城にて四天王の会議だ。
現在魔王の支配を強めているこの優勢な状況で余裕のある魔王軍勢。会議も決して緊急を要すものではなく、定期連絡のようなものだ。
前回の戦いで勇者のふりをした魔王は、一度すべての四天王を討ち滅ぼした。そしてそれは、ふりではなく実際に絶命させている。
お陰で前四天王の内3名は新しい者が任命された。
魔獣族の筆頭、獅子頭のバシド。
魔獣族は常に種族内でも闘争が激しく筆頭が代わる事もよくあるらしい。
魔族の女王、サキュバスのロレッタ。
インキュバス、バフォメット、エンプーサ等の人型の魔物である魔族を束ねるロレッタは前女王の実の妹である。
一つ目族の長、イートク。
前族長なき後突如現れた強大な魔力を扱う若き長だというが、常に余裕に満ちた笑みを浮かべる彼は謎が多い。
「やあ、よく集まってくれた。」
そんな色濃い長達をまとめる彼もまた一筋縄では行かない。
魔王アスタ。
一見華奢で小柄な普通の人間に見えるが、その瞳の奥の闇は誰にもはかり知ることはできないのだろう。
円卓を囲むようにそれぞれが配置された会議室。
集められた悪性の強い者達は、仕事とはいえ決して勤勉な態度ではなかった。
「定期報告をもらえるかな。」
「そぉ~ね~。前の時からって言うと、小さい村を10は潰したわよ。」
ロレッタは肘をつき髪を指でくるくると巻きながら退屈そうにそう言った。
「村の雑魚人間なんざ数えるまでもねぇ! オレサマは国軍基地をひとつ潰して皆殺しにしてやったぞ!」
鼻息荒くバシドは興奮気味に語った。
魔王はにっこりと笑って二人を称えるように小さく拍手をした。
「一つ目とアンデッドはどうかな?」
魔王はイートクとドストミウルを流すように見る。
「我々はこれまで通り魔法兵器の開発を推し進めております。すぐに目に見える成果は出すことができませんが、時がきたら…とだけは言えるでしょう。」
一つ目族の言葉に魔王はうんうんと頷く。
「死の王、そちらは?」
「兵ならいくらでも出そう。要請してくれれば加勢はする。」
具体的な内容の無い回答に目を細めてロレッタは意地悪そうに笑う。
「骸骨のお爺様は前任からの継続でお疲れですかぁ~?全然進軍もなさっていないようですし、ほんとやる気まで死んじゃってますぅ?」
バカにするように女王はアハハッと笑った。
「正直僕は、成果をどれだけ出すか…ということを貴方に求める気はないよ。元々そういうタイプではないのは知っているし。こちら側に居てくれるというだけでその効果は大きいからね。」
魔王はドストミウルににっこりと微笑んだ。
どちらの言葉を聞いてもドストミウル落ち着き払っていた。
「それとも彼に止められているのかな?」
その言葉にピクリと反応する。
ドストミウルはゆっくりと魔王の顔を見た。
「彼は私の仕事に関しては口出しはしない。そちらから、やれと命令されていないからしていないだけだ。」
「それでいいんですよ、私達の協力体制なんてあくまで利害の一致ですから、競い合うのは見当違いでしょう。…しかし、古より数々の伝承を持つ死の王に口を出せる"彼"という存在には少し興味がありますね。」
一つ目の男はさも興味深いとでも言うように少し身を乗り出してアンデッド族の代表を見つめた。
「死の王は人間の恋人がいるんだよ。自分を殺しにきたやつを捕まえて、ね?」
魔王は同意を求めるように少し首をかしげてにっこりと微笑みかけた。
「ええっ?まじ?奴隷じゃなくてぇ?ちょ~ウケる。」
「彼ってしかも男かよ。流石アンデッド、きしょくわりぃ。」
「ほほう、興味深いですね。」
四天王達がそれぞれの反応を見せる。
「ああ、黙っていて欲しいことだったかな?」
魔王は薄ら笑いを浮かべる。
これがどういう意図があっての事なのか、魔王の発言には理解がしがたかった。単に場を混乱させ私を不快にさせたいのか、それとも先程の話題を打ち消すための救済なのか。
「秘密にして欲しいとは言わない。だが、それを公言した事により彼に危険が及んだ場合は許しはしない。」
魔王の意図がどこにあるにしろ、彼との愛は事実であるし恥じることでもない。
「へへぇ、イカれてんな。ペットのコネズミちゃんに惚れたってのか?それで人間を殺すのに抵抗が?くっだらねぇ、アンデッドは脳みそまで腐ってんだなぁ!」
下品な笑い声で獣のリーダーは笑う。
ドストミウルは動かなかった。
そう、いちいち下賎の者の薄っぺらい悪態に反応する必要はないのだ。
「あんたに付き合うとはその人間も相当イカれたやつだよなぁ?骸骨に襲われてああん!きもちぃー!ってか?どんなやつだか知らねぇけど、精神障害でもある出来損ないの人間じゃねぇ…」
バシドが言葉を止めた時、他の四天王達も動きを止めた。
気がつけば床が黒い瘴気で覆われていた。足元から漂う空気は死を誘うように冷たく、足のある四人はその闇から伸びる黒い手に足首を掴まれていた。
少しうつむいていたドストミウルは顔を上げ、バシドを見つめた。
「私への不満は許そう、アンデッド族への見当違いな批判も受け流そう。だが、彼への冒涜だけは万死に価する。歴史も地位も名声も関係はない、私は本気、だ。」
ドストミウルの目が赤く光る。
三人の四天王は肩をこわばらせてひきつった表情を張り付かせる。その強大な魔力が作り出す闇に、死を背に感じていた。
この場で命が尽きる恐怖を感じていた。
ただ魔王を除いては。
「まあまあ、今回は手を引いてくれないか死の王。また人員が減るのは僕だって面倒なんだ。獣の王も謝罪と撤回を、穏便に頼むよ。」
闇に足を拘束されながらも、魔王は変わらずに微笑んでいた。
ドストミウルは魔力を徐々に回収する。
「ああ、悪かったよ…今のは聞かなかったことにしてくれ。別種の生き方に干渉する必要は、ねえもんな。」
バシドは口元を歪ませて力無くそう言った。
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