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規律のゴルゴア
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好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
そういうものははっきりとするべきだと思う。
私自身そういう性格であるし、使用人という主を支える立場であれば物事をはっきり判断する能力はより必要である。
それだと言うのに、自らの向上心の不足を理解しながらもふざけた態度を取り続けるやからは必ずしもいる。
本来ならばそんなやからは我らの長が成敗して下さるのだが、それが出来ない時もある。それならばと私が手を下す事ができない訳では無いのだが、やつに実行した場合消えるのはきっと私の方だ。
少し前に私の目の前に現れた男はへらへらと笑いながら使用人の仕事を軽んじるという最悪な行為をする者だった。
使用人をするからには真剣に真面目に取り組むべきだ。細かな気を配り、些細な不調和に目を光らせ、自らと共に周囲を正す。それが理想的な働き方ではないだろうか。
だかそいつは違った。
自ら使用人である事を望んだというのに、仕事を任せればすぐに持ち場から消え、仕事に関係の無い者と立ち話に明け暮れ、何一つ悪びれた様子もなく終わりに至る。
怠惰だ!こんな者が怠惰以外のなにであろうか!
怒り狂おうにも、怒鳴り散らそうとも、私の気は晴れない。何故こんな奴が私と同じ使用人をやっているのだろう。
そして、秩序を乱す彼を排除することも叶わないのだ。
何故あんな男が我らが王の愛しの君だと言うのだろうか!
私は日々、絶望している。
「何か俯いて悩み事っすか?先輩?」
「なっ!?」
終了の挨拶を終え、そんな事を考えていたら不意に話しかけられた。
顔を上げるとにたにたと笑いながらその男はわたしを見下ろしていた。
「珍しいじゃん、アンタがぼーっとするなんて。体調悪いの?」
「ふざけた事を抜かすな、カノル!アンデッドに体調不良などある訳がないだろう!」
私は手を振り伸ばし少し下がって距離をとる。
顔を引き攣らせながら同時に少し下がったカノルを、私は痛いほど睨みつけた。
「ご、ごめんて、なんでいっつもそんな怒ってんの。せっかく可愛い顔してんのにシワが増えるぜ。」
「用がないならさっさと消えろ。」
「ちがっ、用があるんだって。さっきビアリーの所行ってたら、バーバラの婆さんがゴルゴア先輩に手伝って欲しい事があるから後できてって...」
「ほう、仕事中にお嬢様に会いに行く余裕があったとは、今日は随分生ぬるい仕事内容だったな。」
そう言われカノルは余計に顔を歪めた。
「いやぁ...余裕を持つことは大事でしょ?男としてどんと構えるべ...」
「覚悟はできたか?」
ゴルゴアは足を引きモップの柄を両手でしっかり持つと、いつでも柄で突けるように構えをとった。
「...すんません。じゃ、そういう事だから婆さんによろしくぅー!」
カノルは後ずさりながらするりと踵を返すとその場から一瞬で逃げ去った。
情けない背中をしばらく睨んでから、ゴルゴアは元の背筋の伸びた綺麗な姿勢に戻った。
ゴルゴアは眉をひそめてため息をついた。
何故あんなのがみなに認められているのだろうか。不思議で仕方がない。
部屋に戻ろうと歩き出すと、広間のヒビの入ったガラスの前で立ち止まる。
私はそんなシワが増えそうな顔をしていただろうか。
眉間を指で数度撫でてみる。
はっとした。
それもこれもカノルが悪いのではないか。何故私があんな奴の言葉を気にしなくてはならないのだ。
「...」
それでも、可愛い、と言われたのは随分久方ぶりな気がする。
ゴルゴアは笑顔を作った自分の顔をしばらくの間鏡で見ていた。
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