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王様のいうとおり①
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私とカノルが喧嘩をするということは日常的によくあることで、その言い争いを私は特に重くは受け止めず一つのコミュニケーションだと思っている。
だが、つい先日の事だ。
些細な事から始まった筈なのに長く熱くなった言い合いは、数度論点をずらし泥沼化した挙げ句にただの罵り合いへと変わった。
「ざけんな、たいした実力もない王のくせに。悔しかったら俺を屈服させるくらいの威厳を見せやがれ!」
この時、長期化のせいで溜まった苛立ちからかいつもなら勝ちを譲る戦いを私は捨てようとしなかった。
「…いいだろう。君としばらく口を聞くのを止めよう。」
いつもならなんだかんだ折れる筈のドストミウルが、喧嘩を終わらせる事をせず、それどころか自分との関わりを一時的とはいえ断とうなどと言うなんてカノルは思いもしていなかった。
「…へ?」
呆気にとられたカノルは口の端を不自然に下げたまま困惑に満ちた表情を浮かべる。
「今回は君の暴言がひどすぎた。君が私への非礼を詫びる気になるまで私は君と話すのをやめる。たまには良いだろう、長期戦だ。」
ドストミウルが落ち着いた様子でそう話すと、カノルはしばらく目を泳がせてからドストミウルに向き直った。
「やっ、やってやろうじゃねえの。てめぇが俺の事恋しくなってすがってくるのを楽しみにしてるからな!」
カノルは強気な目をしてそう言った。
「それ楽しいの?」
その経緯を聞いたギャリアーノはなんとも呆れた顔で親友を見ていた。
「楽しいかの問題ではなく、この状況でカノルがどういう反応をするのかという事が気になっている部分が大きい。」
「本当に嫌いになった訳じゃなくて?」
「私が彼を嫌う事は無い。」
「結局いつもの痴話喧嘩じゃん。まあ、君にしては珍しくエンターテインメント性のある選択をしたよネ!でもこのまま続いたらどうする気?」
「今回の目標はカノルに謝罪の言葉を述べさせる事だ。力ずくで屈服させてみようかと思うのだが…」
「思うのだが?」
「嫌われてしまったらどうしようか。」
なんとも情けなくそういうドストミルウルをみてギャリアーノはわざとらしく肩を上げた。
「ホント、君の悩みは意味が分からないヨ…」
その戦いは一週間を軽く過ぎ、周りが不安がる中で二週間を抜け、三週目の終わりを迎えようとしていた。
カノルとドストミルウルの意地の張り合いは続いており、お互いに無言のまま部屋で過ごす日々が続いていた。
ビアリーも困惑しきっていたが、ヂャパスやギャリアーノの仲介を経てカノルとは話せていた。
昼間になり完全に二人きりの時間も会話はなく、部屋は静まり返っていた。
カノルは、どうせすぐにドストミルウルが泣きついてくると思っていたが、その予想期間を多いに更新してくることに少しの不安は抱いていた。だが、ここでやめてはつまらない。今までも必ず折れてきたのはドストミルウルの方だ。だから、時間はかかるにしろ向こうが謝ってくるのだと確信していた。
一方ドストミルウルも一度放った言葉を撤回する気はなかった。今回はカノルから謝罪の言葉を引き出すと目標も設定した。これまでの信頼を確固たるものにすべく、甘やかすだけの関係に変化をもたらそうと思っていた。そのためにならと心を鬼にして生活していた。
お互いそんな風に思っていたわけだが、カノルが眠る時にドストミルウルは決まって一緒の布団に入った。仲違いしていようとそれが愛する彼との約束であるからだ。
カノルは決まってドストミルウルを見ないように窓の方を向いて眠った。
ドストミルウルも対するようにカノルに背を向けて休息をとったが、カノルの寝息が聞こえる頃には音もなく布団を抜け出してその寝顔を覗き込んだ。
その日もドストミルウルはしばらく言葉を交わせずにいる愛しい人の顔をまじまじと見つめ、ため息をするように肩を落とした。
そしてカノルに向けて手をかざす。闇の魔力が渦巻いて魔方陣を形成すると体のある一点に向けた。
この無意味な戦いの終止符への一手を踏み出したのはドストミルウルだった。
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