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裏切りの吸血鬼①
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俺とドストミウルは珍しくイフの城に遊びに来ていた。珍しくとは言っても最近暇なドストミウルに連れられて、俺も使用人の顔を覚えるくらいには回数を重ねた。
ドストミウルとイフの話は基本的にくだらない事が多い。ドストミウルは昔の話をよくするし、イフはたまに行くらしい人間の街の話なんかをする。
俺は特別はなし上手でもないから、2人の会話を適当に聞いているけど、たまに興味を持った部分を掘り下げてみたりしてる。
こうやっていつまでも死ぬ事が出来ない化け物達はただただ時間を潰しているのかと思うと哀れだとも思う。まあ、俺はそれなりに楽しんでるわけだけど。
「あ、そうそう!この間さ、珍しい薔薇が咲いたんだ。偶然に別品種同士が交配しただけなんだけど、面白いから見てみない?」
イフは思い出したようにそう言った。
「花か」
ドストミウルはあまり興味が無さそうだ。
「俺は見てみたいな、珍しい花なら留守番してるビアリーの土産話にもなるし。ドストミウルは部屋で待ってる?」
「いや、私も行こう。」
さっきまで乗り気ではなかったくせに俺が行こうとするとコレだ。分かりやすいというか、こういう所にアホっぽさを感じるのは俺だけなんだろうか。
「じゃ、庭にあるから見に行こうヨ!」
イフはくつろいでいたソファーから立ち上がり、俺達もゆっくりと腰を上げた。
「あ、俺、便所寄ってから行くわ。」
部屋を出て少し歩いてからカノルはそう言って足を止めた。
「一緒に行こ...」
「来んなよアホ。先行ってて、庭でしょ?」
「うん、西側ネ。」
「おっけー」
軽く手を振ると俺は来た道を戻った。
ここから1番近いトイレは、さっきまでいたイフの部屋だ。面倒だが仕方ない。
部屋に入るとメイド達が俺達が食い散らかしていた物を片付けてくれていた、それを横目にトイレに入った。
イフの庭には色々な薔薇があるし、珍しいって言ってたのは何色なんだろう。それとも形が珍しくて色は普通なのかな...用を足しながら考えていたらドアの向こうから小さな悲鳴が聞こえた。
「きゃっ!」
「ちょっとアンタなにやってんの!」
「ごっ、ごめんなさい。手が滑って...ああっ」
トイレを出て遠目で様子を見ると、どうやら片付けをしていたメイドが食器を割ってしまったらしい。
「ちょっと...それ、ギャリアーノ様のお気に入りのティーカップじゃない...」
先程怒り気味だった先輩らしきメイドが白めの顔をさらに青くして言った。
ティーカップを割ってしまった新人らしいメイドも、表情を強ばらせながら割れたカップを前に手を震わせていた。
「アンタ、ギャリアーノ様に知られたら消されるわよ...」
「...わっ、私...わざとじゃなくて...あああっ、どうしよう...」
カップを割っただけでメイドを消すとかあのイフがするだろうか、とも思ったが割とこいつらは身内に厳しい。それに魔王軍の一味であるだけに、割と残酷な部分もあるのだと俺は知っている。
イフは物へのこだわりは強い方だし、消されるってのも冗談ではないだろう。
「じゃあさ、俺が割ったって事にしておくね。イフのやつも俺の事は流石に殺さないと思うし。」
メイドに近づきながらカノルがそう言うと、2人のメイドは驚いた顔でこちらを見つめた。
「いえっ、そんな事出来ません。怖いけど...いいんです私が...」
「んじゃ、イフに俺がやったって伝えておくから適当に後で話合わせておいてよね。」
カップを割ったメイドが震えた声で言うのを遮って、カノルはそう言い残すと手を振って小走りで部屋を出ていった。
「カノルさん...」
「なななっ!私の...ティーカップを...」
「ごめんて、残りもん食ってこうと思ったら手が当たって〜」
「君、分かっているのかネ!あのカップの希少価値を!血祭りだ、極刑だ、首を落とすぞカノル!」
頭から煙でも出そうな程怒ったギャリアーノはカノルの胸ぐら掴んで揺すった。
「落ち着けギャリアーノ、カノルを殺されたら私が困る。」
「知るか!こいつの躾も出来てない君も同罪だぞドストミウル!ヴァンパイア旋回落下で首の骨を折るからナ!」
旋回落下がどれ程の威力なのか知らないが、やられたら俺は普通に即死しそうだ。
「そうだよドストミウルだって連帯責任だかんな、じゃあドストミウルが持ってる物で弁償するのはどう?ドストミウルの部屋にいくつかカップもあんじゃん?」
イフは急に手を止めて俺を見てからドストミウルを見た。
「え?じゃあドストミウルの部屋にある、アドーニャ作品のカップくれる?」
「む、あれか...惜しい気もするがアレで気が済むなら持っていくといい。」
「やった!本当に!吾輩、あのカップずっと狙ってたんだよネ〜。前ちょうだいって頼んだ時は断られたし。」
これで一件落着だ。なんとも価値の天秤の狂っているヤツらで本当に良かったと思う。
「なんか、君に踊らされてる気がするけど気のせいだよネ?」
イフは怪訝そうな顔でカノルをみた。
「は?勝手に踊ってる方が馬鹿なんだろ。」
「かーっ、これだから品のない田舎者は!」
そんな俺とイフのいざこざを背に、赤紫の珍しい花弁の薔薇は笑っているようだった。
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