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裏切りの吸血鬼②
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「あのっ、ギャリアーノ様。私、実はこの間お気に入りのティーカップを割ってしまって...でもカノルさんが割った事にしてくれって言われたんですけど、あの、耐えきれなくて。もっ、申し訳ございませんでした。死ぬ覚悟は出来ています、どうかカノルさんを責めないで下さい。」
新人のメイドはぼろぼろと大粒の涙を流しながら、ひたすら床に頭を擦りつけていた。
「あー、あれね。もういいよ、解決したから...」
ギャリアーノは闇に染る窓の向こうを見ながら、話を聞き流しているかのようだった。
「ですが、カノルさんはなにか私の代わりに酷い仕打ちを受けたのかと思うと...」
「受けてないからへーきだヨ。代償はドストミウルから貰った。...それより、んー」
あまりにも関心のない主の態度にメイドはゆっくりと顔を上げた。
ギャリアーノは変わらずに窓の外を見つめていた。
「気のせいだといいんだけどねぇ...」
「カノル、ちゃんと食事をとってよく眠るのだぞ、仕事も無理しないように、困った事があったらちゃんと言いなさい、寂くなったら...」
「うっせぇな!ガキじゃねぇんだぞ!!とっとと行けよ!!」
俺は人の姿をしたドストミウルに数発蹴りを入れた。
たかが3日間屋敷を空けるだけでこの心配のしようだ。過保護とかのレベルじゃない。むしろ、馬鹿にされてるような気さえしてくる。
ドストミウルが敗れて核になる前なんかは、もっと屋敷に居ない日の方が多かったってのに復活してからは出掛ける度にこの有様だ。
「ビアリー、カノルを困らせるのではないぞ。」
ビアリーは元気に頷いた。
「なあ、本気でうざってぇから早く行けっての。」
カノルが呆れて肩を落とすとようやくドストミウルは馬車に乗り込み始めた。
「明日の夜にはギャリアーノにも来るように伝えてある。何かあったら相談するように。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
ドストミウルは何かを思い出してもう一度こちらに戻ってきた。
近づくとその手はすっとカノルの顎に触れ、唇に優しいキスをした。
「出ている間も君の事を想っているよ。では行ってくる。」
カノルは眉間にシワをよせた。
ドストミウルはやっと馬車に座ると、人間になった執事長が馬を叩き馬車が発車した。
ビアリーは馬車に手を振ってから、カノルの顔を見つめていた。
「どうしたの?パパ顔が真っ赤よ?ってビアリーが言ってるよ。」
少し横からドストミウルを見送っていたアリアがそっと通訳する。
「...いや。その、暑いなって...」
「カノルはドストミウル様の事が大好きだからキスされて照れてるんだよ、ビアリー。」
「おめぇな!いちいち説明しなくていいから!」
そんな楽しそうな父をみてビアリーの気分もなんだかほっこりしていた。
その夜、カノルはビアリーと森を散策していた。
この間ギャリアーノの城で見た薔薇の話をしたら興味を持ったビアリーが、薔薇を育てたいと言ったので野ばらを探しに来ていた。
カノルはこの森で一度見たことがある野ばらの場所をあまりよく覚えておらず、宛もなく歩き回っていた。
2人は森で遊んだりしながらしばらく野ばら探しをしていたが、なかなか見つからずに諦めかけているところだった。
「見つからなかったらごめんな、でも確かにどっかで見たんだよなー」
ビアリーは微笑みながら首を横に振った。
「見つからなかったら、ドストミウルに街で薔薇の苗でも探してきてもらうか。イフの薔薇を分けてもらうんだっていいし。」
ビアリーはうんうんと頷いた。
「って、そろそろいい時間だよな。ビア、先に屋敷戻っててくれよ。日が昇ってきたらまずいし。」
ビアリーは心配そうにこちらを見て首を傾げた。
「俺はもう少しだけ探してみるね。明るい方が俺は見つけやすいし。大丈夫だよ。」
カノルはそう言うとビアリーの頭を撫でた。
ビアリーも頷くと、その場でカノルに小さく手を振った。カノルはその手に軽くタッチすると笑った。
「じゃ、また明日な。おやすみビアリー。屋敷まで気をつけて戻れよ。」
ビアリーは目を細めてわらった。
それから、向きを変え日が昇る前に屋敷に着くようにと小走りで屋敷の方へと去っていった。
カノルはその背中が見えなくなるまで見送ると、辺りを見回した。
「んー、もっと東の方だったかな。」
独り言を呟きながら散策を続けた。
しばらくそうしているうちに、うっすらと辺りが明るくなり始めた。
「あっ...」
カノルは探していた薔薇を見つけた。
誰が管理している訳でもないその花は、ヴァンパイアの城の庭のものほど可憐ではなかったが、数個開いている花は凛として顔を上げていた。
「ここだったか、んー...また明日ビアリーと来よう。」
薔薇をじっと見つめてカノルは小さく呟いた。
じりっ、という砂の擦れる音が背後から微かに聞こえ振り向こうとした瞬間、頭に衝撃を受けカノルは意識を失った。
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