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裏切りの吸血鬼③
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頭痛、倦怠感、手首...足首、順に脳が痛みを認識し始めた。
うっすらと1つしかない目を開ける。
薄暗い部屋、音はなく、少しカビ臭い空気が肺を染める。
ここはどこだろうと考え始めた時、物音が聞こえた。何だろうと体を起こそうとすると、自分が拘束されている事に気がついた。
手首、足首を隠すように厚い鉄の枷が固くはめられており体の自由が奪われている。
「はっ...なん、これ...」
状況が飲み込めずに頭は混乱していた。
兎に角、なにか良くない状況にある事は確かだ。ここが何処で、こうなった原因は何?だれが、なんの為に?そんな思いが頭を過ぎった。
コツ、と上品な靴の音が薄暗い部屋に籠るような音で響いた。
小さな炎が宿るランプを片手に、近づいてきた人影はカノルの顔を覗き込んだ。
「ご機嫌はどうだ、ニンゲン?」
カノルは相手の顔をしっかりと見たが、まったく見覚えのない人間風の男だったので眉間に皺を寄せた。あまりいい状況ではなかったが不思議と精神が乱れることはなかった。
「っ、誰だよアンタ!こんなふうにしたのはアンタなのか?目的はなんだよ、アンデッドと何か関係のあるやつか?」
声を荒げられたにもかかわらず、くくっ、と男は喉を鳴らして笑った。
そして勢いよくカノルの顔の横に手をついた。
「目的?...オレの目的は、ドストミウルを消すことだ。」
カノルは驚いて目を開いてから男を睨んだ。
近づいた所でようやく顔がよく見えた。明るい色の長い前髪、鋭い目付き、一見人間にも見えるが口元には人よりも長く鋭い犬歯が光った。
こいつは吸血鬼だ。
「ドストミウルを殺すなんて出来るはずねぇだろ。アイツを殺したって核になって寝こけるだだけだぞ。」
「その核を破壊する方法があるとしたら?」
意外な返答に俺は少し動揺した。こいつが言っていることが事実だったら本当にドストミウルが消される可能性があるって事だ。
吸血鬼は優越感を含んだ笑みを浮かべた。
「お前はその作戦の餌だ。お前さえ握れればドストミウルはどうにでもなる。」
どうやらこいつはドストミウルと俺の関係を理解した上で俺を拘束したらしい。つまり俺を人質にしてドストミウルを倒そうとしている。これは思った以上にやばい案件かもしれない。
「どうしてアンタはそんな事しようとしてんだよ。」
「お前に教える必要はないが、知りたくば教えてやろう。...オレはアンデッドの王に成るのだ。ドストミウルと同盟という名で支配下に置かれるのはもうたくさん!ドストミウルを殺し、ヴァンパイアこそがアンデッドの頂点であるという事世界に示してやる。」
カノルは不快そうに顔をしかめた。
なんというか、ぱっと聞いた感じだと子供の無謀な野望のようにも聞こえてしまう。だが、状況が状況だし笑っている訳にもいかない。こんな危険な野望に燃える吸血鬼を何故イフは野放しにしていたのだろうか。もしかしてイフとは関係ない遠くから来たやつだったりするのか。
「んな事出来るわけねーだろ。お前の方がドストミウルに殺されるぞ。」
吸血鬼は拳をカノルの耳元に思い切り打ち付けた。
「オレはドストミウルには負けない...」
怒りのこもった目で思い切り睨まれたカノルは表情を曇らせた。
迫られて気がついたが左目の護衛は機能していない様だった。そもそも拘束される時点で発動するはずじゃないのか?穏やかな日常で平和ボケしたのだろうか。あとでドストミウルにゲンコツ案件だ。
「...因みに、アンタってイフとは関係ないの?」
「だったらなんだと言うのだ?」
「強いかどうかはよく知らないけど、ヴァンパイアのリーダーはあのおっさんでしょ?」
「ああ...なんだ、現王の事を言っているか?」
カノルは頷いた。
「無縁ではないがオレはあいつを認めはしない。ヴァンパイアの頂点に居ながら甘んじてドストミウルにひれ伏す愚か者だ。」
男は呆れ顔でそう言った。
イフだって別に弱腰でひれ伏してドストミウルについている訳でじゃない。イフはイフなりに誇りは強く持っているし、ドストミウルの言いなりって訳じゃなくむしろ言いたい放題言ってくるくらいだ。実際タイマンで戦ったらどのくらい差があるのかは知らないけど、ヴァンパイアの王としては立派に仲間を束ねているし、時にはドストミウルより頼りになることだってある。
このヴァンパイアがどれほどイフとの関わりがあるかは知らないけど、割と仲良くしている俺からするとこの評価は心外だ。
「アンタ、名前は。」
「アーモスト…その拙い脳に刻むがいい。餌になるお前に教えたところで何にもならないがまあいいだろう。」
アーモストは不敵な笑みを浮かべ冷たい寝台に縛り付けられたカノルを見下した。
ヴァンパイアの城。
日が暮れ始めた頃、頼まれていたドストミウル邸の監督義務を果たしに行こうと、ギャリアーノは出かける準備を始めていた。
気配を感じて部屋の入口を見ると、ドアを開けて娘のアーテリーが入ってきた。
「ん、アーテリーちゃんどうしたの?」
少し不安そうな表情を浮かべたまま彼女は早歩きで向かってきた。
「ねえパパ、お兄ちゃん見てない、よね?」
「アーク君?見てないよ、そういえば最近ちっとも遊びに来てくれないネ。そんなに人間の世界って研究する所あるのかね。」
「アーク兄じゃなくて...」
アーテリーの苦い表情をみて、ギャリアーノは表情を固くした。
「アイツが?何故?あの日から一度も姿を見せた事なんてないぞ。」
「そう、だよね。私も気のせいだと思いたいんだけど。部屋に入った形跡があるの、使用人達だって入ったりしないでしょ?」
ギャリアーノはいつもとは違い真剣な表情で眉間に皺を寄せた。
「...私はすぐドストミウルの屋敷に行ってくる。アーテリーは他に不審な形跡が無いか調べて何かあれば使い魔を寄越しなさい、いいね?」
アーテリーは真っ直ぐと父を見つめ頷いた。
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