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裏切りの吸血鬼④
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ギャリアーノがドストミウル邸に着くと、ビアリーとバーバラ、ゲイル。そしていつもはドストミウルの仕事場にいる、スケルトン部隊隊長のズッツが広間に集まり話し込んでいた。
「おお、ヴァンパイアの王よ来てくだすったか。」
ギャリアーノに声をかけたのはズッツだ。いつもはアンデッド城で大剣を振り回している彼は、ドストミウル不在の為の屋敷の警護として召喚されていた。
「集まっているところを見ると、何か問題かい。」
ギャリアーノは集まりの輪に入ると、皆の顔を見回した。
『パパがいないの、おじ様みてない?』
そう悲痛な顔を浮かべて念を伝えたのはビアリーだった。
「最後に見たのはビアリーちゃんだったらしいの。森でお散歩しててね、日が昇りそうだったからビアリーちゃんだけ先に戻ってカノルちゃんはまだ森にいたらしいんだけど...」
バーバラは心配そうに首を傾げた。
「夜になって皆が起きてみたら何処にも見当たらないという訳だ。昼間なら街へ行く可能性もあるが、夜になっても戻らないのはおかしいと話していたのだ。ヴァンパイアの王、心当たりは?」
ゲイルの問にギャリアーノは険しい表情をして俯いた。
「嫌な予感がするんだよネ。...ん〜本当、気のせいだったらいいんだけど。」
「嫌な予感とは?」
ズッツが聞いた。
「...うん、とりあえず私からドストミウルに使い魔を送る。カノルの事となれば最高速で帰ってくるデショ。見つかったら見つかったで良いし、今回は責任は私がとるよ。」
ギャリアーノはそう言うと指先から蝙蝠の形をした影を取り出し高く振り上げた。
何度目かの心地の悪い覚醒をした。
拘束されてからどのくらい経ったのか分からない。暗い密室のような場所では今が昼か夜かさえ感じる事は出来なかった。
「なぁ...いつまで俺はこうしてればいいの?」
近くにいるはずの首謀者に問いかける。
「ドストミウルが来るまでだ。」
闇の中からあのヴァンパイアの男が気配を表した。
「俺を人質にドストミウルを脅すんでしょ?そう簡単にいくとは思えないけどね。思いの外アンタ、すぐにやられちゃうんじゃない?」
アーモストはカノルの視界に現れ、その襟元を強く掴み引き寄せた。
「退屈だからと言ってふざけた事ばかり抜かしていると、貴様とて只ではおかないぞ。」
「アンタに殺されるのは御免、だけど俺はアンタが勝てるとはちっとも思えないね。ヴァンパイアだからとは言わないけど、何にでも格ってもんはあるし、そもそも」
アーモストは勢いよくカノルに馬乗りになると、手に持ったナイフを持った。
「黙れ餌風情が!」
「図星突かれてビビってんのか?」
カノルが笑って煽ると、アーモストはナイフを勢いよくカノルの肩に突き刺した。
「っ...、がっ、てめぇやりやがったな。」
カノルの左肩はじわじわと赤く染まり始めた。
アーモストはただ憎しみを込めた目でカノルを睨んでいた。
「安い挑発に乗って感情揺さぶられてる奴が王になんてなれる訳ねえだろ。...怖いならやめておけって、まだ間に合うから。」
アーモストはその瞳に影を灯したままカノルを見つめていた。
突然部屋がガタガタと揺れ始めて、とんでもない爆発音がすぐ近くで鳴り響いた。
真っ暗だった地下室に凛とした月明かりが流れ込む。
爆発音が収まってからその方向をみると、ふたつの黒い影がこちらをみていた。
「カノル!無事か!」
「...ここだったか。」
久しぶりのまともな明かりで目が痛かったが、月明かりでもそれが誰なのかはハッキリとわかった。ドストミウルとイフだ。
「おっせーよ!!馬鹿!!早く助けろ阿呆!!」
真剣な顔をしていたギャリアーノは口の端を歪ませた。
「何あれ、ピンピンしてるよ。散々頑張って探してやった苦労が報われないネ。」
「うむ、無事で何よりと言うやつだ。」
アーモストは二人の王の前に立ちはだかった。
「待っていたぞ、ドストミウル。貴様には今日ここで死んでもらう。」
歩み出たのはギャリアーノだった。
いつにも増して真剣な表情で、ギャリアーノはアーモストを睨んでいた。
「自らの行いがどんなに罪深いことか分かっての行動か。お前の愚行は昔からの事だが、これは冗談では済まされんぞ。他人に死を示すなら自らの死も覚悟せよと昔教えたはずだ、ちゃあんと理解しているのか。なあ…我が息子よ。」
アーモストは怯むどころか、口の端に笑いを浮かべていた。
「えっ!?親子なの?」
カノルは拘束されたまま頭だけ上げてその様子を眺めていたが、意外な事実に声を出した。
「ああ、そうだよ。昔から高めな理想を求めたがる馬鹿な次男坊サ。迷惑かけたねカノル。」
カノルは、少し寂しそうにそう言うギャリアーノに、いつもとは違う父親の顔を見た気がした。
アーモストは片手で顔を塞ぎ俯いていた。
「くふっ、はははははははっ!だから貴方はいつまで経っても二番目でしかないのだ、我が父よ。新しき道を切り開く事をが愚行と言い捨てるのなら、ヴァンパイア族は永遠に愚民なるぞ。」
アーモストは背中に負っていた剣をゆっくりと鞘から引き出した。
「その臆病風ごとオレが切り割いてやる。」
その剣は眩い光を放ちながら姿を表した。
絶えず明るく輝く剣先、命の木を模した装飾、夜の闇を忘れさせるような光を放つ剣。
カノルはそれを知っていた。
「っ、光剣コーミリアロ、光属性最上位の剣じゃねえか...」
アーモストのあの自信はこの剣から来ていたのだ、核を破壊する方法があるなんて冗談だと思っていたがこれを見たらカノルは笑ってなんていられなかった。
アンデッド族の弱点である光属性でしかも最上位武器、ドストミウルが敗れる要因としては十分に思えた。
「ばっ、逃げろドストミウル!流石のアンタでもヤバいって!俺の事はいいから早く!」
冷や汗を流しながら必死に叫ぶカノルの喉元にその剣が当てられた。
「そこを動くなよドストミウル、ついでに父さん貴方もだ。コイツを殺されるのはあんたにとっては致命傷だろう。」
アーモストは誇らしげに笑っていた。
ドストミウルは言われた通りひとつも動かなかった。ギャリアーノはアーモストを睨みながら口だけ動かした。
「そんな忌々しい剣、ヴァンパイアは扱えないはず。お前何を犠牲にした。」
アーモストは目を一瞬見開いてからニヤリと笑っていた。
「この体はヴァンパイアであり、ヴァンパイアでは無い。憎らしい人間の血を通わす事は不快ではあるが、目的のために手段は選ばない。」
ギャリアーノはそれ聞いて苦しそうに目を細めた。
「憐れな...」
アーモストは剣をドストミウルに向けた。
「さあ、歴史を変える時間だ!」
ドストミウルはその剣をただ見つめていた。
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