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増えてゆく
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本来なら敵の拘束や攻撃に使うための細い触手を柔らかく束ね、暖かい恋人の中へと差し込む。
姿を変えてぴたりと肌を重ねて楽しむのもいいのだが、きっと私はそれが常になることを恐れている。
仕事中や仲間の前では絶対に出さないような情けない声を出して、彼は身体をよじらせる。
汗をかき、髪を乱し、時には涙を滲ませながら変わらずに日々私を望んでくれる。
ずん、といつもの場所を捉え深く擦り付ける。
どうもこうされるのが好きらしいので、しばらくこりこりと刺激を続けれてやる。
体内は熱を増し、快感の下僕となった身体は無意識ではね動く。きつく締めあげられた体内で轟く鼓動が伝わってくる。
限界をむかえると背を反らし声を上げながら、ひとのマントをがむしゃらに掴んだまま彼は果てた。
肩と胸を膨らませ荒い呼吸をする。
あせが汗が伝い落ちる首筋には私が付けた痕が赤くにじむ。まだ余韻で歪む瞳がちらちらとこちらを伺うので、頬を押さえつけて口元を包むようにたくさんの舌を這わせる。
彼の口の中を隅々まで堪能する。喉の奥深くまで舌を這わせたい気持ちを押さえて、バケモノなりの愛のある口付けを楽しむ。
彼の体温、汗、鼓動を感じ自らが癒されてゆくのが分かる。この瞬間だけは、自分の悪性も忘れてしまうほどに、彼を愛することに集中できる。
口を離し、顔を覗き込んだ。
「カノル、大丈夫かね。」
「ん、あん。へーきだよ。」
どれだけ気持ちがよかったかが伺い知れてしまうほどに彼は気分のいい顔を向けてくれた。
そんなに優しく微笑まれると、本当に彼が天使にしか見えなくなってくる。神は何故この私にこんなにも愛しい天使を使わせたのだろうか。
湿った頬を撫で、首筋を通って鎖骨をなでる。
ふと肩にできた傷痕に意識を取られてしまった。
「心配しなくていいよ。もう全然いたくないから。」
私の不注意と危機を軽んじた失態のせいでおわせてしまった傷だ。彼はずっと気にしないように私に言い聞かせてくれるが、私はこの傷を見る度に後悔している。
「君を、この世で一番大切に思っているはずなのに、私は君の傷を増やし君を不幸にするだけだ。」
目を奪い、指を奪い、傷を増やした。直接的に傷つけている訳では無いにしろ、私と会ってから来てから彼の傷は増え続ける一方だ。命に達するものではないにしろ、確実に彼を蝕んでいる。
「ネガティブだなぁ...アンタが陰気なのは見た目通りでいいけど、そういうのって周りの人も巻き込むからやめような。あと、俺は不幸だなんてちっとも思ってないから決めつけないでもらえる?」
カノルは先程までとは違い少し不機嫌そうにこちらを見上げていた。
「...こうして傷が増え続けるのが恐ろしいのだ。いつか重大な傷を負わせてしまうのでは、とな。」
「俺は、その時が早く来るのを望んでるけどね。」
カノルはいつものような悪戯そうな笑顔を見せた。
その言葉に喜べない私は、今も彼との約束を果たす気は無いのだろう。
いつか無くしてしまうものをあえて早く失う気にはなれない。
傷つき壊れてゆく体だとしても、せめて心だけは癒しを与えてあげられないものだろうか。
カノルの柔らかい唇にそっと触れてみる。
「まだ足りないの?」
「君はどうかな」
「ちょっと休憩したいかな。ん、」
カノルはそう言ってドストミウルに向かって手を伸ばした。
ドストミウルはカノルにそっと身を寄せると、包み込むように抱き寄せた。
カノルは硬い骨の体に頬を寄せて嬉しそうに微笑んだ。
何故こんなにも愛おしいのだろう。
癒すどころか心を修復されているのはこちらの方だ。
何かを与えることが出来ないのは、バケモノの宿命だと言うのだろうか。
「すまない、何もしてやれなくて。」
「はあ?何でもしてくれるじゃん。衣食住完備。」
「私は君に何も与えられてなどいない。私は君から奪ってばかりだ。」
カノルは顔を上げてこちらを見つめた。
「大好きだよ、ドストミウル」
唐突にそう言われドストミウルは言葉を失った。
いつもなら絶対にそんな言葉を口にすることなどない恋人がうっとりとした顔で愛の言葉をくれたのだ。空耳だろうか。明日には世界が終わるのかも知れない。いや、こんな事をされれば終わっても惜しくないとすら思ってしまう。
「大切なもんって長く持つでしょ?そーすると自然と汚れたり傷がつくじゃん。だから、俺はね傷が増える程にアンタとの時間が増えたって思えるし、大切にされてるって思えるよ。」
カノルは尚も幸せそうな顔でそういった。
ドストミウルはただただカノルの顔を見詰めた。
「...何故...」
「少し休めたしもう一回してよ。」
カノルは骸骨の頭を両手で抱えるように抱きしめると柔らかく額と額を合わせた。
「たまには甘えてもいいよ、アンタが甘えられるのって俺だけでしょ。」
「ああ、君だけだ。こんな事をするのも、求めるのも、愛するのも...生涯君だけだ。 」
「生涯ねぇ...アンタのクソ長い人生そんな風に決めちゃっていい訳?まあ、いいや。」
カノルはご機嫌そうに笑った。
「さ、もっといい思い出増やそうぜ。」
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