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過ち③
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コンコン、と乾いたノックの音が部屋に響いた。
固く閉まるドアの向こうに何者かの気配がするが、部屋の扉は開かない。
「ゲイル、休んでいる所すまんがカノルを見かけなかったか?」
温かみのあるしゃがれ声が聞こえた。
意識をほとんど捨てていたカノルの目がうっすらと開く。
「いや...見かけていない。他を当たってくれ。」
ゲイルは身体を繋げたままの体勢で、そっと落ち着いた声で答えた。
カノルは瞳に涙を溜めたままカクカクと視線を泳がせる。
「...そうか、他を当たろう。」
ぶつぶつと何かを呟きながらヂャパスの足音は部屋の前から遠ざかって行ってしまった。
ゲイルは一呼吸置いてから、散々犯した想い人を見た。
濡れた体、鎖に繋がれた腕、力のない瞳。
一歩下がると自分のものが入っていた場所から、どろりと白い液体が漏れだした。
カノルのそんな姿を見て、ゲイルは急に我に返った。
...何故自分はこんな事をしていた?
積もった好意を抑えきれなかったから、そんな単純な理由で?大切な主君と大切な人を裏切って傷つけてまで?今までこんな事は無かったはずだ、冷酷な番人で居られたはずなのに。どうして。
後悔の念が痛いほどに全身を貫いた。
劣情に支配され大罪を犯したのだ。
「すまない...カノル、我は...こんな...」
か細く震えた声で頭を抱えながらそう言った。
カノルはゆっくりと瞬きをしてから、ゲイルをじっと見つめた。
ひとつ小さめに深呼吸をする。終わりを見せた暗闇にゆっくりと現実を引き寄せる。
「すまない...、すまない...」
ゲイルは錯乱したように目を見開いていた。
「...とりあえず、コレ取ってくんない。痛くてかなわねぇや。」
カノルが軽く腕をあげると、手枷がカランと冷たく鳴った。
ゲイルはすぐさま手枷を外し、着替えを準備してくれた。ゲイルはずっと手をふるわせ顔を俯いていた。
シャツに腕を通すと手首が赤くなっているのが分かった。血までは出ていないもののその一歩手前までは来ている感じだ。
身体中が痛くて、酷く気分が悪かった。特に激しく擦られた部分は腫れているようなぼけた感覚が染み付いていた。
俺は最速で着替えを済ますと部屋の出口へと向かった。
「カノル...」
背後から力のない声にくるりと振り向く。
「じゃあ...またなゲイル」
扉をしっかりと閉める。
俺は上手く笑えていただろうか。
カノルは周りの気配に気遣いながら全力で自室へと向かった。
部屋でシャワーを浴びながら、ごちゃごちゃになる思考を整理する。
さっきのことをドストミウルが知ったらどうするだろうか。ゲイルが殺されるだろうか。俺はなんて言われるだろうか。執事長にはバレていなかっただろうか。ドストミウルには何て言うのが最適なんだろうか。
なんで…なんで、ゲイルはあんな事をしたのだろう。
もし、俺がこの屋敷に来たせいでゲイルに変な感情を抱かせてしまっていたのだとしたらきっと悪いのは俺だ。
いや、明らかに強姦だし悪いのは全部ゲイルだ。最高に気分は悪いし体も痛い。手首は擦れて痛いし、首元に吸い後もたくさんついていて気持ち悪い。
それでも、いつも話し相手になってくれたり励ましてくれたて優しかったゲイルの姿を思い出してしまう。最後も彼は本当に後悔している様子だった。
ドストミウルに知れたらゲイルはきっと消されてしまう。もう会えなくなってしまう。
回りすぎて火がつくんじゃないかってくらい思考は葛藤に揺れてた。
シャワーを出て着替え終わった所でヂャパスが部屋に入ってきた。
「なんじゃお前さんこんな所に居たのか、散々探してしまったわ。...どこか調子でも悪いのか。」
ヂャパスが心配したのは俺が首が隠れる長袖の暖かそうな服を着ていたから。
「なんか寒気がすんだよ。風邪かも...しばらく休ませて。」
カノルは困ったように笑った。
「ほらそれなら早く休んでおれ、旦那様が聞いたらさぞ心配するじゃろう。後でドクターにも見てもらおう。」
「いいっていいって、そんな大事な感じじゃないし。とりあえず休んでマース。」
ヂャパスは心配した様子でカノルがベッドに入るのを見届けてから部屋から出ていった。
「風邪か!?君は体調を崩しやすいからな、何か必要なものがあれば言ってくれ。腹は減っていないか、薬は、飲み物は?」
数日して帰ってきたドストミウルは、ヂャパスにカノルの様子を聞いてから高速で部屋のベッド前へと姿を現した。
「とりあえずアンタが黙ってくれる?うるさくて寝らんないし。落ち着けない。」
「ううむ、そうだな言葉数は減らそう。」
「あと、しばらく禁欲してね。」
「もちろんだ、君に負担をかけることはしない。何か必要な事やものがあればすぐに言うといい。」
「本っ当に過保護。」
「うむ、ゆっくり休みなさい。」
ドストミウルは優しくカノルの頬を撫でた。
カノルは嬉しそうに笑った。
俺は嘘をつく事を選んだ。
選んでしまった。
ドストミウルもヂャパスも上手く言いくるめて裏切った。心が痛くて潰れそうになった。優しくて大好きな人に、苦しみを打ち明けられないもどかしさで泣きそうになった。久々にとても死にたいと思った。
それでも作り笑いを固めて、俺はこの嘘を墓場まで持っていくと決心してしまった。
ごめんな...ドストミウル。
それでも俺は友達を死なせたくはないんだ。
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