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鍵穴の向こう①
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ひどい熱を出した俺はしばらくして熱が下がったにも関わらず、今日もベッド安静を言い渡された。ドストミウルが長期で出かけてしまっている今、何かあっては困ると骨の医者と包帯の執事が非常に細かくうるさい。
そんな訳あって意味もなく寝すぎたせいか俺は真昼間に目を覚ました。薬もしっかり飲んでるし、水分ノルマを達成しているせいか体は非常に調子が良かった。
「暇だな。」
またすぐ寝付ける気はしない。
部屋を出たらヂャパスに見つかるだろうか。
そんな事を考えていたら、足音が聞こえた。
「だいぶ調子が良くなってきたようだな。顔色がいい。」
ベッドに近づいてそういったのはヂャパスだった。
「もう平気だからさ。ベッド安静解除してくれよ、このままじゃ精神の方がイカレちまうって。」
「そうだな...」
ヂャパスは少し悩むと、少し下に俯いた。
「部屋内の行動は許そう。」
「せめて屋敷内にしてくれよ、弓打たせて。」
「体を動かすのはまだダメだ。」
わざと聞こえるように舌打ちをして、思いっきり不機嫌な顔を向けてやった。
残念ながらその包帯の向こうの表情は計り知れない。
「カノル、暇つぶしと言ってはなんだが...付き合ってくれんか。」
「何に?ついて行くなら屋敷内おっけー?」
「いいや、部屋でできることじゃよ。」
ヂャパスから何か話題を持ちかけてくるのは初めてだった。不思議に思いながらも俺はうなづいた。
改めて体調を一通り確かめられた後、俺はベッドを降りて部屋を歩き始めたヂャパスに付いて歩いた。
ヂャパスは広いこの部屋の端に行くと足を止めた。
そこはベッドの反対側に辺りにあるドアの前だった。俺はこの部屋に入ったことは無い。昔一度だけ興味本位でドアノブを回したが鍵がかかっているのか、錆びているのかで回らなかった。だからなんの部屋かは知らない、ドストミウルの自室なのだろうと思いこんでいた。もちろんアリアが入ったところも見ていない。
「ここって...なんの部屋なわけ?」
ヂャパスは何も言わず懐から古びた鍵を取り出しドアの鍵穴に差し込んだ。
やはり鍵がかかっていたんだな、とカノルは思った。
「ヂャパスの爺さんの部屋、て訳じゃないか。」
ドアは渋い音を立てて開けられた。
ドアの前からでは薄暗い部屋の中はよく見えなかった。
「入りなさい。」
「お、おう。」
なんだが少し緊張感のある物言いに俺は少しだけビビっていた。
一歩中に入るとヂャパスが魔力動源で明かりを灯す。
ぱっと照らされると、その部屋にはびっしりと本が並んでいることが分かった。両側の壁は全て本棚になっている、それも天井に着くまで全て本で埋め尽くされているのだ。
「...すげえや、こんなん誰が読むんだよ。」
「旦那様の趣味なのだ。各地から拝借した歴史書とご自身で書き留めた日記のようなものが大半だ。」
「やっぱドストミウルの部屋ってこと?俺、勝手に入って大丈夫?」
「お前さんは何をやっても怒られんだろう。」
「爺さんは怒られない?」
「なんの為に儂が鍵を持っていると思う。」
「部屋の管理はアンタに任されてるって事?」
ヂャパスは何も言わず頷いた。
そして部屋の入口に戻ると内側から再び古びた鍵をかけた。
「お前は今や旦那様にとって無くてはならない存在となった。」
鍵をかけるとヂャパスはカノルの方をしっかりと見据えた。
「これから真面目な話?」
「そうだ。だから、お前は旦那様の秘密を知る権利があると儂は考えている。」
苦笑いを浮かべるカノルに対して、ヂャパスの口調は落ち着いていた。
「秘密...ねえ。」
「お前は旦那様の過去が知りたいか。何故死の王と呼ばれるようになったか、そして死の王になる以前人間としてどう生きていたか。」
ドストミウルに人間の人格があったらしいという事は何となく知っている。人間に化けた時の姿もそれをモチーフにしてるって事も聞いたことがある。
「それは...ちょっと気にはなるけどさ。割とどうでもいいかなって思う。」
「何故だ。」
ヂャパスは驚いたのか少し声量を上げた。
「別にそれを知った所で俺はドストミウルとの関係を変えるわけじゃないし。」
「旦那様を見る目が変わるかもしれないしな。」
カノルはゆっくり首を横に振った。
「それはねえと思うよ。別に今更どんなエグい昔話が出てきても、とんだ女たらしだったとかでも何とも思わないかな。もう死ぬまで付き合うって決めちまったし。」
ヂャパスはしばらく考えるように沈黙していた。
「儂はそれなら余計に知っていて欲しいのだよ、カノル。」
「そっか、アンタがそこまで言うなら聞こうかな。座っててもいい?」
「体調がまた悪化しても良くない。気分が悪くならない程度までにしよう。」
ヂャパスがそう言うとカノルは近くに会ったソファーに座って頷いた。
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