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朝日は何度でも昇る
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「全てが嫌になることって無い?」
研ぎ澄まされたように空気は冷えていた。辺りの葉にはまだ半分ほど残る霜が夜が明けるのを嫌がるようにしがみつく。
尖る空気を滑るようにその質問はドストミルウルに伝わった。
「君と居てからは無い。それまでは…」
喉を詰まらせるように擦れたことばの意図をカノルは 疑いもなく理解した。
「それまではよくあった?」
視線はただ地平線を見ていた。
「そうだな、よくとは言わない。定期的に、うむ、よくあることだった。私はその度に色々なものを壊した。小物、壁…ああそうだ命なんて物のように潰していた。」
カノルは膝を抱き寄せて頬がつぶれる程に顔を押し付けた。
「俺も、そうできたらよかった。」
「なにができたらよかったのだ、物に当たることかそれとも容易く命を消すことか?」
カノルは目蓋がよじれるほどにめをつむって膝に顔を埋めた。喜怒哀楽などという簡単にふるい分けることのできない感情が心臓の奥からあふれでているのを感じた。
「…前に魔王が言ってた事、今なら分かる。種族と役割があってそれを変えることはできない。」
語尾を滲ませたカノルにドストミルウルはそっと近づいた。
「とっとと死ねばよかったんだ。」
「今ここでご所望かね。」
カノルは顔を上げてドストミルウルを不機嫌そうに睨んだ。
「嫌だ。俺は今最高に人生楽しいの。」
「先程まではどうにも絶望しているように見えたが」
少し笑ったようにそうドストミルウルが言うと、カノルの表情も和らいだ。
「あーあ、今みんなぶっ壊れちまえばいいのに。世界まるごと、どかーんってさ。俺もアンタも一緒に死ぬの、最高のハッピーエンドだ。」
膝を解放してカノルは草地に寝転がった。
「ああ、それはいいかもしれないな。とても、理想的だ。」
カノルは左手を空に掲げ欠けた指の隙間から薄暗い空を見た。
「ねぇ、ドストミルウル。永遠ってどのくらい?」
「それこそ、世界が終わるまで…いや、そんな事では終われないな。たとえこの世界が消えて虚空になっても、この想いだけはあり続ける。君を愛する気持ちは、時であろうと神であろうと消すことはできない。」
「なにそれ、規模がでかすぎて意味わかんない。」
左手を落として腹に力を入れて笑うカノルの瞳からは涙がこぼれた。
登り始めた朝日の橙の光が、続く涙を鮮やかに染めた。
「愛しているよカノル。君にとこしえの愛を誓う。」
顔を付き合わせるように黒いマントと共にドストミルウルは体を寄せた。
「アンタの愛の言葉は毎回プロポーズされてるように聞こえるよ。」
「ああそうさ、プロポーズしているのだとも。何度でも君が聞いていなくても私の事を嫌っていても構わないのだ。私はこの想いに逆らうことなんてできない。」
死者の顔を向けたドストミルウルの口枷にカノルはそっと手を掛けてずらした。その人ならざる口元にそっと唇を寄せる。
「愛しているよカノル。」
ははっ、とカノルは声を上げて笑った。
細めた目からはまた一つ涙がこぼれた。
「それも耳にタコができるくらい聞いたな。」
「まだまだ聞き足りないのだろう?」
ドストミルウルはカノルの背に手を回し抱き上げた。
「うん。何回でも言って、俺を喜ばせて安心させて甘やかして。」
カノルもドストミルウルの首に腕を回し、こつんと頭がぶつかるまで引き寄せた。
柔らかくもなく、温かくもない死を纏ったバケモノ。それでもこうして一緒に居られるだけで、体ごと弾け飛んでしまうくらいに嬉しいのだ。
「愛しているよ、カノル。」
それが嘘でも、間違いでも、洗脳でも、
なんだっていいのだ。
今日も朝日が上って、新しい日ができて夜に落ちる。
あの日俺は悲運だったかもしれない。
それでも今はとても幸せなんだ。
それだけで、それだけでいい。
毎日、ずっと、このままでいたい。
ずっと、ずっとだ。
「俺も…大好きだよ、ドストミルウル。」
デッドマンズラバー3 END
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デッドマンズラバー シリーズ完結。
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