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武運
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小さな金属の塊が音を上げた。
ブルーライトの光を放つ板から、目線をそっと彼に向ける。
モノトーン色のカッターシャツを容易に着こなし、パンツは
彼のスタイルの良さを見事に引き立たせている。
シンプルな格好の彼は容姿の良さもあってか、とても映えて見えた。
それに比べて、僕は地味な色のパーカーに、
まだ心が未熟であったときーー(今でもまだ未熟だが)ーー
バスケ部に所属していた頃の名残りで、深緑色のバスパンを穿いていた。
靴はもちろん、クロックスだ。
灰色ベースの迷彩柄はカッコイイから好きだ。
なんとも言えない服装に、「お前にセンスは皆無だな。」
なんて人を憐むような目で見た友人のことを思い出した。
全く失礼極まりない。
「お客様、すみません。今日は席が混雑しているため、
相席になってしまうのですが、それでもよろしいでしょうか?」
洒落たロング丈エプロンを身につけたアルバイトの男が
そう告げる声がふと、耳に入った。
自慢じゃないが、僕は耳がいい。
偶に聞きたくないことまで聞こえる時もあるため、良し悪しではあるが……。
何気なく彼に目線を向けると、一瞬、遠くにいる彼と目が逢った気がした。
瞬間、身体中の血液が爆発するかのように熱くなった。
が、目が逢ったのは一瞬で。
手元にあるボタンに指を置くと、そのまま指をしならせた。
***
エンターキーを押したとき、頭上から声が掛かった。
「すみません。ここ、いいですか?」
「はい。どう、……ぞ」
目線を上げた時、彼がいた。
たしかに、今日は週末ということもあってか、人がいた。
お店を混ませるほどには。
だがしかし、相席になるにしても、他の人の元へと行ってしまうんだろうな、
なんて考えていたものだから、それはそれはもう、驚いた。なんて言葉じゃ、言い表せないくらいに。
「ありがとうございます。」
「あ……。」
反対席に座る彼を見ていて、ハッとする。
机上にはファイルやら、紙やらが散らばっていたからだ。
それもそのはず、人が来るなんて誰が予想するだろう?
ましてや、それが彼だなんて……。
急いで、それらを机の隅に寄せ、つむじに感じる視線に
気付かないふりをする。
終わらせると、またも目が逢った。
「……あの、なにか?」
恐る恐る、問う。
ふっくらとした唇が動く。
「いや、……先にいたのに、申し訳ないことをしてしまったな、と。」
何かと思えば。
驚きはしたが、嬉しかったのも事実。
けれど、これを知らない人、ましてや男に言われたらどう思うだろうか。
否、彼を見ることができなくなってしまうかもしれない。
それは、どうしても避けたい。
「いや、全然大丈夫ですよ!お気になさらないでください。」
なんて。
なんて、他人行儀な言葉なんだろうか。
敬語は嫌いだ。
互いを知らない他人同士なのだからこればかりは仕方がないが。
敬語を使うと、その人との差や、隔たりを感じさせるから、嫌いだ。
彼は、嬉しそうによかった、なんて呟いている。
真っ白な肌がほんのり赤く染まって、目を奪われた。
ーー綺麗だと思った。
伏せたまつ毛に、色っぽい目。
彼の何もかもが綺麗だとおもった。
また、目が逢う。
「あの、なにをしてるんですか?」
「えっ」
「いや、パソコン使われているので、何をしているのかなと。
気になったもので……。」
驚いた。
本当に驚いた。
彼を見ていることに対して、言われたのかと、そう、思ってしまった。
小さく息を吐き出す。
「レポートを書いてたんです」
「へぇ、レポートですか。」
彼の瞳がよく見えた。
口を僅かにも小さく空いてて、
ーーそんなに驚くかな。
なんて、考えながら、
小さく相槌を打つ。
「僕、歴史が好きなんですよ。それで」
考えるよりも先に、口が動いていた。
彼は何も聞いていないのに。
口が、勝手に。
「そうなんですか?実は、僕も歴史好きなんですよ」
「え、本当ですか?」
彼が目を爛々と光らせた。
「特に、好きな時代は江戸時代でーー。」
「僕もです!」
驚いた。
またしても驚いた。
こんなことがあってもいいのか。
だって、ねぇ?
気になってた人と相席で、話しかけられて、距離も近くて、趣味も合うだなんて。
ーー嬉しいに決まってる。
ふと、姉が読んでいた恋愛漫画にあった1ページを思い出して、笑った。
こんなことがあってたまるか。
でも、もしかしたらーー。
「運命かもしれませんね。」
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