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曼珠沙華5
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──キヨ視点──
遊女が客に恋をする事例なんて、いくらでもある。
局達の中には身請けされて商人の妻になるものも多い。
(局「つぼね」 …遊女の位のひとつ)
…でもその恋は身分相応のものだから成り立つのであって、俺の場合とは全然違う。
恋なんて俺とは一生縁のない物だと思っていたのに。
…どうして、こんなにも苦しい。
はぁ、と知らずのうちにため息が出る。
ダメだ、夜明けは色々考えてしまっていけないな。
白濁液で汚れた着物の帯を結び直して、湯浴びに向かう。
俺は女ではないから、中に出されたものは掻き出さないと腹を下してしまうんだ。
子を孕む心配が無いのはいい事だけれど。
「…姐さん」
湯殿に向かおうとすると、心配そうな顔の禿に話しかけられた。
「どうした?起きるの早いな。」
まだ朝日は登ってきていない。
禿達はまだ寝ている時間のはずだ。
「…湯殿に向かうのですか?お背中お流しします」
「いやいいよ、いつもの事だし手伝ってもらわなくても、髪をとかすのだけお願いしてもいいかな」
「いいえ、一緒に入らせてくださいませんか」
「そこまで言うなら」
おいで、と声をかけると、彼女は無邪気な顔で微笑んだ。
──────────────────
上質な絹の布で髪が拭かれる。
染み込ませている香水のせいか寝不足のせいか、頭がくらくらする。
「…大丈夫ですか」
静かに目を閉じていると、上から声が降ってきた。
「んー、急にどうしたんだよ。」
「最近無理しすぎじゃないですか?気づいてないかもですけど、お客様の前以外での姐さんの笑顔、あたし達全然見れてないです!」
驚いて目を開けると、今にも泣き出しそうな顔があった。
…最近調子が悪いのは分かってた、でもこいつらにまで負担かけてるとはな。
「…ごめん」
「謝らなくていいですよ!…あたしには話してくれませんか?」
「分かった、話すよ…」
毛先だけ赤い髪を丁寧にとかして、ちょこんと俺の前に禿が座る。
自分のうちだけに留めて置こうと思ったんだけどな。
絶対に叶わないだろう、と悲しくなるのはどこがで望んでしまっている俺がいるからだ。
いっその事話してしまって、諦めるのもいいのかもしれない。
「…レトさ、いや、レトルト様が好きなんだよ」
長い間をおいてやっと絞り出した声は、情けないくらい掠れていた。
抱かれていたからなのか、それとも他の理由があるのか、自分のことなのによく分からない。
禿は驚いた表情をうかべて、きゅっと唇を噛んだ。
「好き、とはそういう好き、なんですよね」
「あぁそうだ。客の1人として、とか、羽振りがいいから、とかじゃない。俺は多分、あの人の隣で一生を添い遂げたいと真剣に思ってるんだ」
レトルト様、…レトさんとは、もう軽い口調で話すぐらい仲は良くなっていた。
─いらっしゃいませ、ご指名ありがとうございますわ、だった挨拶もいつの間にか、レトさんいらっしゃい、になって。
綺麗に咲いていた桃の花はもう散って、もう彼岸花が鮮やかな赤色を開く季節だ。
恋心を抱き始めたのはいつ頃だったか。
「…レトルト様は、特に姐さんを気に入っているように感じます。お身請けの可能性はありますよ、」
「俺を気に入ってる…?」
「そうですよ、だってあの方が指名するのはいつだって姐さんですもの。それに、他の姉様方とは違った、…なんて言うのかな、柔らかい笑顔を姐さんに見せてますし」
「それは違うよ。確かに他の遊女に比べて気に入られてるのかもしれないけど、レトさんは俺を女としては見てくれてない」
その証拠に、レトさんが俺を夜に誘う事は無かった。
昼下がりにぷらりとやってきて、花魁道中までには帰る、これの繰り返しなんだ。
…遊郭に来て最中だけ食って帰るやつなんて世界中探してもこいつだけだろう。
それを分かっていながらもあんな男に恋をしてしまっている俺も俺で可笑しい。
「俺の気持ちはもういいんだ…仕事柄恋なんてできるはずがないと思っていたし。心配かけて悪かったな」
「元気がないのはそのせいなんですね…」
「もういいって言ったろ、日も登ってきたし、朝飯食べて部屋に戻ろうぜ」
少し赤く染まっている禿の眦に口付けをして、俺は立ち上がった。
…俺の為に泣くことなんてねぇのにな。
今日の予定はなんだったっけ、あの人は来るんだっけ。
来て欲しくないと願うのに、来てくれたら嬉しい…矛盾にも程がある、馬鹿みたいだ。
突然、次会った時に普通に接することができるか不安になった。
会いたくない、と突っぱねてしまおうか。
「 想 见 你 (ねぇ、貴方に会いたいわ) 」
客の相手は終わったはずなのに、そんな言葉がぽろりと出てきた。
──────────────────────
作者より
ちょーっと聞いて欲しいことがあって、、、
私この曲「曼珠沙華」大好きで!
皆さん聞いてくれたらな、と思っているのですが、、
ちょっと好きなポイントを説明させてください!
曲の中で遊女の娘(ここではkyさん)は、3種類の花に例えられます。
菫、桃の花、そして曼珠沙華(彼岸花)
菫 はまだ恋心を知らない純粋な時、桃の花 は遊女(花魁)として働いている夜の姿、そして 曼珠沙華 は禁じられた恋に溺れていく姿、だと私は考えています。
作中で桃の花という言葉が乱用されてるのはその為です。
ちなみにですが、菫は鞠の色で使ってるんですが…気づいていただけたかな!
それと、この曲では中国語が沢山出てきます。
今まで作中で使われたのは「欢迎来到桃源郷(桃源郷へようこそ)」と、「想见你(会いたい)」 ですかね…?
あと2つぐらい入れていく予定なので、楽しみにしてて貰えたら嬉しいです♥
それと、今回の小説ですが…えっち入れます!!!
すごい久しぶりでちょっと緊張してます!!
7ぐらいになるのかな…?
これからクライマックスのちょっと前ぐらいになります、お楽しみに!
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