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空っぽの瞳3
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──────牛沢視点──────
風呂でちゃんと処理したあとのキヨは、とにかく俺に本当に自分のことが好きかどうか聞いてきた。
何回も、何回も。
それこそ狂気を感じるレベルに。
相変わらずその瞳は真っ黒で、何を考えているのかがまるで分からない。
「…うっしー、」
「『俺の事好き?』、だろ?もう何回目だよ」
「…ごめん、ちょっと不安でさ」
濡れたキヨの髪を拭きながら小さくため息をつく。
「…なぁ、いい加減なんで泣いてたか教えてくれよ。お前結構おかしかったぞ」
「心配してくれてんのは嬉しいけど、マジでなんでもねえからさ。気にしないで」
なわけないだろ、ばぁか。なんか隠してんのぐらい分かってんだよ。
ある程度乾いてきてドライヤーを止めると、キヨがこちらを振り返った。
「……ねぇ、うっしー好きだよ。」
あぁまたこの目だ。
漆黒、なんて厨二病のような言葉でしか表せないけれど、それぐらい底の無い闇。
ありがとうの言葉がスムーズに出てこない。
…キヨは、誰を見ている?
「…お前さ、」
「ん?なぁに」
「………ほんとに、俺のこと好きなの?」
真っ黒い瞳が大きく見開かれ、…一瞬だけ俺を映した、気がした。
「なに、いってんの…俺は、うっしーが…」
「ずっと思ってたことなんだけど。お前いつも誰に好き、愛してる、って言ってるんだよ!?」
「もちろんうっしーだよ!」
「違ぇだろ。“うっしー”なのは確かなんだろうけどさ…俺じゃねぇじゃん。俺じゃない、他の奴に言ってるようにしか感じられねぇんだよ!!!」
そんなわけ、ない、と消えそうな声で呟かれる。
デートしてる時も、ご飯食べてる時も、セックスしてる時だって。
こいつが見てるのは、多分俺じゃない奴だ。
そいつが誰なのかは分からないけど、キヨが俺を俺として見てないことぐらいは分かる。
「なぁキヨ…お前は、俺が好きなのか…?」
肩を掴んで目を合わせる。
さっきバスタオルでふき取ったはずの涙が、また零れ落ちた。
「好きだよ!!」
…嘘だ。
「…………………もういいわ。別れよう」
「なんでっ!!!!!」
そばに置いてあった鞄を引っ掴む。
「なんで、なんでっ!!俺は、うっしーが好きなのにっ!!なんで…」
「なんで、じゃねぇよ。お前のせいだろーが」
「違う違う違うッッ!!うっしーが、好きなのにっ…」
玄関に向かう俺を追いかけようとして、キヨがぺたんとフローリングに座り込んだ。
さっきヤったばっかりなんだ、しかも何時間も。
俺が手をかしてやらないと、多分明日まで立てない。
「うっしー…っ!」
靴を履こうとした時、涙が混じったキヨの声が聞こえた。
「大好きって、愛してるって言ってくれたじゃん…あれは嘘だったわけ!?ねぇお願い、やだよ、行かないでよ…っ!!」
「………また、俺をすてるの…?」
────────────────────
キヨの家から帰る時、エレベーターで妙な男にあった。
俺がキヨの部屋から出てきたのを見てぎょっとした表情を浮かべた後、すれ違いざまに俺に囁いてきたんだ。
「騙されるなよ」って。
それから3週間、キヨとは何も連絡をとってない。
あんなことを言ってしまった手前気まずくて、4人実況の誘いも全部断った。
…1度だけ、間違えてキヨからの電話を取ってしまったことがある。
レトルトのスマホにかかってきたのを勘違いしてとっちまったんだ。
…あいつはなんて言ったと思う?
「もしもしうっしー?」って。
…普通過ぎたんだよ。
俺はこわくなってすぐに電話を切った。
だって考えてみろよ。あんな別れ方をしたのにもかかわらず、だ。
意識してつっかえるわけでもなく、泣くわけでもなく、まるであの事を無かったことにしているように思えた。
────────────────────
3週間もすると、レトルトとガッチさんが薄々気づき始めた。
キヨくんとなんかあったんか?と昨日心妙な面持ちで聞かれたんだ。
あいつらに気を使わせるのもあれだし、俺は思い切ってキヨの家に向かった。
何も変わってない風景。まぁ3週間で変わるはずもねぇけど。
ドアが段々と近づいてきて、心臓が暴れ出す。
大丈夫、落ち着け。
相手はキヨだ。そんなに緊張する必要なんてない。
前作った合鍵であるカードキーをかざすと、かしゃんと小さく音がした。
「キヨー…?居ねえの…?」
薄暗い廊下を抜けてもキヨの姿は見えない、それどころか電気すらついていない。
出かけてんのか…?
その時、かたんと背後で音がした。
「!?」
よく耳をすませてみると、小さくくぐもった声が耳に届く。
「…っ、うっしー…」
キヨの細い声。
何日ぶりに聞いたんだろう、前は毎日聞いていたはずなのに。
俺から突き放したのに、何でこんなに胸がいっぱいになるんだ。
声のした方に進むと、ほのかに明かりがついた寝室があった。
うっしー、とまたキヨの声が聞こえる。
ー…大好きだよ、うっしー。
「キヨっっ!!…、、え?」
「うわっ?!誰だお前!」
部屋のドアを勢い良く開けて、俺は固まった。
…知らない男がベッドに座り、キヨがこちらに背中を向けて顔を胸にうずめている。
どういうことだ…?
お前は誰だ、だってさっき、キヨはうっしーって…!
「おいキヨどういうことだよ…あいつ誰だ?知り合いか?」
「え…?」
男がキヨの肩を揺さぶる。
キヨはゆるゆると顔をあげて、俺の方をみた。
「おい、そいつ誰。なにしてんの」
言ってからあぁそういえば俺達別れたんだっけ、と思い出す。
キヨは俺に顔を向けてふにゃんと笑った。
「うっしー、おれのことすき?」
「何言って「好きだけど!その前に説明しろよ」…は?」
「うっしー」と呼ばれた男はキヨを抱きしめて俺を睨みつける。
それが見えないぐらい、俺の目はキヨの瞳に釘付けになっていた。
…目を離せない、逸らせない、吸い込まれてしまいそうな闇。
それが細められたとき、俺はすべてを理解した。
こいつは最初っから、あったときから俺のことなんか見てねぇ。
この男を見てるわけでもない。どこか違うところを見てるんだ。
…あぁしてやられた。
狂ってる、としか言いようがない。
いつの日か言われた「騙されるな」が脳に反響する。
俺も「うっしー」、この男も「うっしー」、多分前の男も「うっしー」。
…ははっ、こえぇよ。
もう何も言う気がなくなって、俺は目の前の男を見る。
「…お前も災難だな」
「…はあ?」
キヨがお前を好きになることは一生ねぇよ。
お前も俺と一緒だ。
end
─────────────────────
終わったぁあああ!!
どうでしたでしょうか…
ご希望に添えたかな?
今回はめっちゃ難しい内容になってます。
乾くるみさんのイニシエーション・ラブという小説を参考に書かせていただきました!
ぜひ読んでみてくださいー!
まず、今回はキヨがすっごい病んでるキャラ設定です。
うっしーは普通の人。
一言で言えば、キヨは何人とも浮気をしています。
そして、恋人全員に「うっしー」というあだ名をつけます。
その一人がうっしー(牛沢)です。
最初、キヨはうっしーの家を泣きながら訪ねます。
その理由は、他の恋人と喧嘩して別れることになったから。
だからうっしー(牛沢)が別れを切り出したとき、「また俺を捨てるの?」なんて言ったりします。
多分パニックになると混ざってしまうんでしょうね。
次に電話の「もしもしうっしー?」。
普通過ぎて怖い。
それはたくさんの「うっしー」と浮気をしていて名前を呼びなれてるから、かな…?
最後に「騙されるなよ」と囁いてきた男。
この人は、最初の方でキヨを泣かせた元恋人です。
もう何もかも知ってて、それでうっしーにアドバイスをしてくれます。
キヨは「うっしー」に愛されたい。
でももうその人はいない。
だから「うっしー」をつくる。
多分そんな思考回路でキヨは動いてるんだと思います。
その元凶のうっしーは誰なのか、私にもわかりません。
伝わってるかな、これ…
改めて、さいこさん、ありがとう御座いました!
めちゃくちゃいいお題…「牛キヨのエロ有りのバットエンドもの」、どうだったでしょうか!
またよかったらリクエストお願いしますー!!
ではでは、またお会いしましょう!
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