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ゼンマイ越しの恋心 (usky)
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────牛沢視点────
20XX年。
世界の人口はもうすぐ150億に達しようとしている今日この頃。
2038年冬、デトロイトで起きたアンドロイドの反乱事件をもう忘れたのか、人類は相も変わらず雑務を彼等に任せる生活に浸っていた。
それがいい事なのかどうかはさておき、サイバーライフ社は新しいアンドロイドを発明した。
新しいアンドロイド、と言う表現は細かくいえば適切ではないだろう。
あまりにも画期的な発明をした創設者のイライジャ・カムスキーはその年のノーベル賞を受賞する程。
プロトタイプのRK800等の旧種は市場には出回らなくなり、その代わりにHE1115という新機種が普及した。
別名“コピー”
細かい仕組みはよく分からないが、思考の解析技術の高度化に伴い、実在する人間のコピーを作り出せるようになったのだとか。
例えば好きなアイドルのコピー。俳優のコピー。
見た目だけではなく、問いかけに対する受け答えや思考回路も本物と同じように作られているらしい。
学生時代に新機種販売が発表された時にはコピー対象にされた人の権利だったりが問題にされたが、10数年経った今となってはその問題も何処かに消えてしまった。
母子家庭だった俺にはアンドロイドを買うお金なんかあるはずも無く、母親と2人他人事のようにそのニュースを眺めていただけだった。
「...え、まじ?」
思わず歯を磨く手を止める。
蝉の声すら遮断された実況部屋で間抜けに俺の声だけが響いた。
スマホの画面にはHE1115種大幅値引きの赤文字が躍る。
どうやらサイバーライフ社の創立何周年記念らしい。
どうせ一人暮らし、家事も洗濯もアンドロイドに頼むくらいなら自分でやった方が安上がりに変わりはない値段。
しかし、ふと。
魔が差した。
PCの編集ソフトを閉じ、サイバーライフ社のホームページを無意識に開いたところでハッとした。
「...俺は何をやってるんだ」
確かにこれを機に1台買ってみるのもいいかもしれない。
それ自体はなんら問題は無い。が。
誰をコピーするんだ。と。
真っ先に浮かんだのは母親の顔で、でもこの歳になって親と住むのはキツいかと思い直す。
...あいつ、とか。
片想いの対象のコピー依頼なんて世の中に溢れかえっているに違いない。
罪悪感はあるにはある。
しかし、それよりも欲望が勝ってしまった。
心の中で誰にも聞かれない言い訳を垂れ流しながら、コピー対象の情報を書き込んでいく。
本名 ×× ××
YouTubeにてゲーム実況者「キヨ」として活動中
身長182センチ、細身。
外見は下記の動画を参考に。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、動画外での性格、嫌いなもの、知っている彼の情報を事細かに書き込み、ふう、と一息ついた。
馬鹿げている。
こんなことしたってあいつが手に入る亊はないのに。
大切な友人のはずだった。
その友人に、やましい感情を抱いてしまったのはいつだったか。
彼が楽しそうに話す女優さんの話題に、笑うのが難しくなったのはいつだったか。
問いかけに答えなど求めちゃいないが、そうでもしないと罪悪感に押しつぶされそうだった。
震える指先でエンターキーを叩き、発注完了の文字をぼんやりと眺める。
“1週間ほどで商品が其方へ参ります”、か。
ピリリ、と朝8時を知らせるアラームが鳴る。
謎に設定された音を止めるべく携帯の液晶画面をスワイプすれば、東京の天気予報が表示された。
気温34℃。
この気温も、もう猛暑日なんて呼ばれることは無いだろう。
ヒートアイランド現象によって年々気温が高くなっていく。
東京は、相も変わらず晴れていた。
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言い忘れてました、新シリーズ、デトロイトパロです。
どうぞお楽しみください、
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