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Broken (gcky)
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────ガッチマン視点────
きっかけはたった一枚の写真だった。
俺の、そして彼の、弱さの証拠。
気の緩みは途方もない大きな事態を引き起こす。
「...ごめん、俺のせいだ。もう我儘に付き合う必要無いから、」
掠れた声でキヨが笑う。
目の下のくまは酷く、紅茶が注がれたカップに文句一つも言わずに項垂れたまま。
「キヨだけのせいじゃないよ、俺も配慮が足りなかった」
「違う!!頼んだのは俺じゃん、ガッチさんは何も悪くないだろ!!!」
「...キヨ、他の人いるからちょっと静かにしようか」
「あ...、 ごめ、」
無遠慮にじろじろと此方を見つめる幾つもの目に気づき、顔を強ばらせ下を向く。
数年前から外せなくなった不織布を弄りながら控えめに俺の名が呼ばれた。
「...がっちさん 」
「なに?」
「ほんとにごめん。最低な事した ... 写真にも気づけなかった、ボロ出したのも俺、全部俺のせい。俺が、 ...」
彼の言葉を聞きながら、スマホに表示された写真を拡大し改めて感心する。
2人の男が手を繋ぎ笑いあっている写真。
片方は茶髪に赤い襟足、もう片方は俺。
5日程前に『男ふたりが手繋いでるとこ見ちゃった~ !!』という文章と共にTwitterにアップされた写真だった。
「...何時だっけ、写真撮られたの」
「...... 1週間前。れとさん家から帰る時...ほら、×××の実況とって、その後だと思う。」
「そっか。....それにしてもよく取れてるよね、こんなばっちり顔写ってるのに気づかなかった」
「俺が“手繋ぎたい”とかわがまま言ったから... 」
彼から目を逸らし窓の外を眺める。
1年前、俺はキヨから想いを伝えられた。
妻子がいるのは勿論知っていた、それでも、どうしてもこの想いを伝えたかったのだと。
その言葉を無下にすることはできなくて、俺は震える肩を抱き寄せた。
それから1年間ずるずると関係を続けたまま。
身体を重ねたこともあった。
妻や子に顔向けできない関係になっても、せめて世間体だけでも保とうと外での行動は気をつけたつもりだったのに。
結果がこのザマだ。
炎上したきっかけは確かにキヨ側にあるのかもしれない。
普段何を言われてもへらへらしている彼だが、生放送でこの写真をみた際珍しく取り乱したのだ。
顔バレでさえ乗り切ったあいつが。
写真が大炎上した日、キヨは俺の家を訪ねてきた。
玄関で頭を下げたまま掠れた声で謝罪を繰り返す彼に、俺は何も声をかけず立ち尽くした。
今と同じように、目を逸らして。
「...がっちさん」
「あ 、 あぁ ... ごめん、なに?」
視線を戻すと乾いた笑みを浮かべたキヨと目が合う。
「俺、さ。実況やめるよ」
「... は 、?なんで、」
「がっちさんの邪魔したくない。独り身の俺と違って家族がいるだろ」
眉を下げて、苦しそうに、それでも彼は続ける。
「こう見えて結構稼いでたから大丈夫。俺のことなんか忘れて、がっちさんは幸せになってくれよ」
こんなにも優しい彼がなぜこんな目に遭わないといけないのだろうか。
俺の日常は、キヨの生活は、俺たちの関係は、顔も知らない誰かに“壊された”。
「...実況やめて、キヨはどうするわけ?」
「..俺 、 は 」
いつの間にか聞こえ始めた雨音に細い声がかき消される。
隣の席ではしゃぐカップルの声、選挙演説、曇りガラスに灰色の空。
どうも都会は汚らしい。
「 逃 げ た い 」
ああ
俺の目に映る唯一の綺麗なものが、涙を流している。
「逃げたい。“キヨ”はもう壊れちゃったんだよ」
「...じゃあ逃げようか、俺と一緒に」
「は...?」
戸惑った様子の彼を引き寄せて頬に一つ口付けを。
姫を攫う怪盗のようにカッコつけたことはできないけれど、キヨにはこれで十分伝わるはずだ。
喫茶店を出て土砂降りの空を見上げる。
これなら涙も目立たない。
「...キヨ、一緒に逃げてくれる?」
微かに首が動いたのを見ると、雨の中駅に向かってかけ出す。
繋いだ手は離さずに。
Our life was broken.
そんな世界なんて捨ててしまえ。
end
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