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「いっつも学校帰り、デートに誘われるんだけどさ。ブランドの服の店とかに入っては、レジでお会計の段階になって“お財布忘れちゃった~”ってオレに頼ってくるんだよね。十着ぐらい買うのに。」
「…ほ、ほう。」
何だろう。俺の背筋にぞわぞわとした悪寒が走った。幼馴染の独白は続く。
「…んで、オレがいくら“デートやめよう”って言ってもやめてくんなくて…。タピオカ飲むし、ハンバーガー食うし、ソフトクリームにドーナツ、ジェラートに…。俺の財布が空になったら、まるで見透かしたみたいにデートが終わるんだ。」
俺の背中に、つーと冷たい汗が伝い落ちていく。
「一回、彼女を街中で見たことがあってさ。休みの日でね。背の高い、オレより格好いい男の人と歩いていてね。後で誰?って聞いたら、お兄さんだって答えられたの。変なの。最近の女子って、お兄さんとでも腕組んであんな密着して歩いているものなのかなぁ。…何でかな。オレ、彼女といても、ちっとも楽しくないの。休日に映画館いっても、彼女は財布を出さないし、っていうか持っているのを見た記憶が…。」
「ヒビキ。」
俺はようやく彼から手を放す。幼馴染はすとんと力なく椅子に着席した。
「…相原と別れろ、いいな??」
俺の言葉に、ヒビキはこくんと大人に何事か言い聞かされた小さい子供みたいに、素直に頷いてみせた。
高校二年の冬である。
俺とヒビキは、高校前の坂を歩いていた。俺は自転車を押しながら、ヒビキはとたとたと歩きながら。
実は、ヒビキと俺の帰宅時間が重なったのは随分と久しぶりだった。…というのも、ヒビキが最近になってドバドバとバイトの予定を入れだしたからだ。慣れないバイトにヒビキの頬は痩せ細り、体重も少し軽くなって見えた。
ヒビキの様子を心配したご両親に頼られて、俺はその原因調査に乗り出した。当初はあいつの勝手だし、と断るつもりでいたら近頃はろくに家に帰っていないらしく、心底不安そうな両親から謝礼を出すとまで言われて踏み切った。…家族ぐるみの付き合いでお世話になっている一家である。幾ら正当報酬とはいえ、お金なんぞ受け取れない。
焦げ茶のロングコートとワインレッドのマフラーに身を包んだ俺は、どちらかというと布地に埋もれていると大変不名誉な言葉を母から賜った。鮮やかなスカイブルーの耳当ての位置を調整しつつ、俺はちらりとヒビキを見やる。
ヒビキの長身に、薄グレーのロングコートは似合っていた。俺が目を引くのは、そこじゃない。首にふんわりと巻き付けているマフラー。ヒビキが選ぶとは思えない、眩いばかりに明るい、オレンジの手編みのマフラーだ。
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