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「今日は休み。」
「…本当??」
ぎゅっ、と俺を抱きしめる腕に力がこもる。
「嘘ついてどうすんだよ。」
たちまち半眼になる俺に、幼馴染はくぐもらせた声で返す。どうせ、両頬でもぶくぅと膨らませたのだろう。長年の付き合いからか。瞼の裏にその姿を鮮明に想像できる。
「…じゃあ、今日こそ一緒に帰れる??」
ははぁ~ん、と俺はほくそ笑む。
「ヒビキは俺と一緒に帰れなくて寂しかったのか~。へぇ~…??」
否定すると思ったら、奴は俺を抱きしめまくったまんま、こくりとすんなり首肯を示す。
「…そうだよ。たっちゃんがいない大学も、たっちゃんがいない帰り道も、たっちゃんがいないこの部屋も。みぃ~んな寂しいに決まっているじゃん。大っ嫌いに決まっているじゃん。言わせないでよ。わかんないのかよ。」
強い口調で言われ、俺はついつい後ろ頭を掻きたくなる。
「…悪い。」
「本当だよ。」
さらに強い力で抱きしめられる。だいぶ息苦しいが…不思議と悪い気はしなかった。
「ヒビキ…。」
「…なぁに、たっちゃん。」
「帰り、何か奢って帰ろうか。」
俺なりの謝罪というか何というか。物で埋め合わせするつもりは毛頭なかったが、それでもいい思い出になればと俺は提案してみる。
「いらない…。」
ヒビキの返答は、恐ろしいほど早かった。頭を左右にグルグル振り回してから、奴は続ける。
「たっちゃんと、大学からこの家まで一直線に帰りたいんだ。お喋りしながら、ふざけながら、時々どっちか笑って。時々…二人で笑いたい。」
いつもの他愛ない道を、どうでもいいような話をしながら…ほんのちょっぴりでも、失った日常を取り戻すように。手繰り寄せるように。
「…今オレは…ワガママだけど、たっちゃんと普通に家に帰りたい。」
何事もない、何の変哲もない、ただ単に行って帰るだけの日々が…何故だか今はとてつもなく恋しいから。
「…わかった。」
俺は己を叱咤し、狭い空間の中、どうにか寝返りを打つ。そして…ヒビキの正面に位置を正した。
「寂しい思いをさせて、ごめんな。」
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