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その気持ちは果たして。
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はてさて何処(どこ)から説明したものか。
そうそう、あるところに町一番の正直者の青年がおりました。
その者は朝から晩まで一生懸命に働いておりまして、なんの仕事かと言うと花屋の仕事なのです。ですので彼の手はいつも皹(あかぎれ)て、よく薬を塗っていました。
そんな彼ですが、正直者だからと言ってなんでもかんでも正直に話してしまう訳ではありません。彼は人を傷付けるような正直は嫌いなのです。
そんな彼には気になる相手がおりました。どう気になるかと言いますと、たまーにですが店の前を通る時、必ず文句をつけていく学生がいるのです。どんな子かと申しますと、とても素直じゃない子でして、あぁほら今日もまた、家路へ向かう途中、覗きに来たようです。
金の髪に青い瞳の彼が――。
「――相変わらず汚い手だな」
会口一番にそう言われ、花屋の青年は瞳を僅かに見開くと、その声の主を眼に留めて「あぁ」と目尻を優しげに下げた。
「君か、今日も相変わらず綺麗な瞳だね」
彼がなんの恥ずかしげもなくお決まりの言葉を言ってのけるもんで、学生は頬を赤らめそっぽを向く。
「そんな事を言うのはアンタくらいだ。大概の人間はこの髪と瞳を嫌がるさ」
そして返ってきたお決まりの返事に、青年は苦笑して店仕舞いの準備をしだす。
花を店の中へと運んでいると、当たり前のように彼も手伝った。
「この町では珍しいからね。君のその」
「異国の人間にそっくりだからだろ。仕方ないじゃないか、母親がそうなんだ。全く腹が立つ」
怒りがおさまらないのか、荒々しく花の入った容器を運ぶ姿に、青年はひやひやとした。
「アンタだって本当はそうなんだろ?」
「まさか、君の髪も瞳もとても美しいと思うよ」
「そんな嘘は聞き飽きた」
「本当だよ。僕は君が好きなんだ」
何気なく言った言葉は彼の正直な気持ちだったが、学生の彼は何を思ったのか妙な顔で微動だにしない。
五分たってもそのままなので、心配になった青年は彼の頬をつついてみる。すると待っていたかのようにガシリと手首を掴まれ、驚き声をあげると、真剣な顔で此方を見詰める彼の瞳と視線が重なった。
「本当だな?」
「え?」
「本気にするぞ」
なんの事か分かりかねて、それでも嘘ではないと頷くと、今度は何か思い詰めたように黙り混む。
「俺、必ずいいとこに勤めて絶対アンタを幸せにするよ」
「はい?」
「そんな手が皹るような生活はさせない」
「え、花は好きだからそれはちょっと」
「じゃあハンドクリーム死ぬほど買ってやる」
なんだか話がおかしな方向にいっているが、彼が至って真面目なのは痛いほど分かる。けれどどうしてこんな事になっているのかと、青年の頭はついていけなかった。
「だから」
ぐいっと引き寄せられ、唇に何かが触れて離れていく。
「絶対待ってろよ」
そう言い残して彼は店を後にした。残された青年は暫くその場にへたりこみ、何がどうなったのか、もしかしなくとも自分はとんでもない事を言ってしまったのか。
そして、どうして今おきた事が嫌ではないのか。
そう思いながら、ある予感に胸がどきどきとざわめいたのです。
果たしてこのざわめきは〝嘘か誠〟か。
――あるところに町一番の正直者の青年がおりました。
その者は朝から晩まで一生懸命に働いておりまして、なんの仕事かと言うと花屋の仕事をしていたのです。ですので彼の手はいつも皹て、よく薬を塗っていましたが……今ではそれも〝過去のお話し〟。
彼の隣にはいつも彼がいるのです。
金の髪に青い瞳の彼が――――。
完
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