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ついていない一日
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その日は、朝から胃の調子が悪く飯もろくに食えていなかった。
通勤電車は事故による遅延で半時間遅れ。
遅刻ぎりぎりで滑り込んだ朝礼には、滅多に来ない本社の社長が出席していてそれについてきていた同期に失笑された。
一昨日出した企画書は上司から突き返され、顧客にアポイントを取っていたのにすっぽかされ、挙げ句には納品先から品番違いのクレームが三件も発生。
なんとか倉庫から掻き集めた在庫で事無きを得たが、暫くは多方面からチクチク嫌味を言われるだろう。
社会人10年目を超えてもこんなもんなのかと、自席に戻った石田 千種が自分の情けなさに深々と溜め息をついたら、それを発注ミスをやらかした事務の女の子に見られて誤解された。
「すみません、私のミスですっ」と周りの目を憚らずに泣き出した女の子を慰めていると、案の定残業になり帰宅時間は約束の15分前。
どこかにお祓いに行くべきだろうか。
背広からラフなシャツとゆったりしたジーンズに足を通し、伸び始めていたヒゲを剃りつつ冷蔵庫の中を確認しながら明日の予定はどうだったかと思い返す。
「久しぶりに家でゆっくりしたいですね」
確か、そう言われて何も入れないようにしていたんだったな。
お祓いは明後日、近所の神社に一人で行くか。
スッキリした頭で改めて冷蔵庫を確認し、帰りに買い物をしてくるはずだったのにと頭を抱えた。
クッソォッ
デパ地下のローストビーフとワインっ
奮発するつもりが不発に終わった。
千種は溜息を付き、簡単にツマミだけでも作るかと狭い台所に立つ。
大学から一人暮らし、いや、途中同棲もあったけれど紆余曲折を経てほぼ一人暮らしだった。
おかげで、それなりのものは短時間でも作れる。
一瞬、思い出したくもない過去に引きずられ、更に暗くなりかけた気持ちを振り切る。
やめろ、やめろ。
ニ週間ぶりにアイツがやってくるんだ。
千種が黙々とサラダを完成させ、枝豆のガーリック炒めを作り、だし巻き卵をくるくる丸め終わると呼び鈴が鳴る。
・・・合鍵を忘れたのか?
「今度行くときに使うのが楽しみです」とあんなに目を輝かせていたのに。
念の為、のぞき見防止の紙をずらし、レンズから外を覗けば見慣れた顔がそこに立っていた。
死刑宣告でも受けた囚人のような青白い顔で。
キリキリキリ・・・
忘れていた胃の痛みが復活する。
千種は、またかよと呻いて奥歯を噛み締めた。
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