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言葉
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「俺と、別れてください」
予想していた言葉。
何度も聞かされた言葉。
匡の唇がその言葉を辿るのを、千種はまるで次元の違う場所、薄い膜でも覆われた向こう側から話されているように感じていた。
自分の身に起こっていることなのに、それを信じたくない。
受け止めたくないと拒否してしまう。
これ以上何も聞きたくない。
「俺、この前、別れ際に『抱きたくなったらいつでも来て良い』って千種さんから言わるまで勘違いしてて。
だから、ちゃんと言わせて欲しいんです。
セフレとしては別れて、俺と正式に付き合って下さいっ」
拒否した以降の匡の声は千種の耳を素通りしていた。
動き続ける唇を眺めながら、笑え、と硬直した自分の顔に命じる。
笑って、セリフを・・・言わないと。
「ちょっ?!
な、なんで泣いてんですかっ
そんなに付き合うのが嫌なんですか?!」
その場に立ち上がろうとした匡の膝が、ガタガタと強くテーブルを打つ。
その音で、千種はハッと我に返った。
(俺、泣いて、た?)
頬に指を当てると、匡の言うとおりそこには涙の筋が出来ていて、今もポロポロと涙が勝手に落ちてくる。
「お、驚かせて、すまない。
今まで、ありがとう」
「やっぱ千種さんの中では、俺はセフレ止まりなんですかぁ」
何とか定形通りに言葉を振り絞ったが、それは掠れて震えてしまった。
情けないな。
こうならない為に、ルールを決めていたのに。
匡に両手を取られ話しかけられていても、傷心の千種の耳には全く届いていなかった。
理由なんて聞きたくない。
彼女が出来たとか。
面白味がなくて飽きたとか。
そんなに良くなかったとか。
そんな言葉にはうんざりだ。
それを言わせないために、感謝で別れを締めくくると決めていたんだ。
あぁ、こんな顔を見せてはいけない。
ルール違反だ。
だから、理由や要らない言葉を掛けられてしまうんだ。
立ち上がろうとする千種。
「ごめん、ちょっと、顔を洗って」
「俺、千種さんに付き合っても良いって思われるまでセフレで我慢しますっ
やっぱり別れないでくださいっっ」
ズイッと迫ってきた匡の顔に、千種は咄嗟に背を仰け反らせていたが頭の中は一瞬で「?」で埋まっていた。
何を言われたんだ、俺は?
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