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二輪
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放課後もかじりつくように美術室に篭る彼を、じっと眺めて、ぽつぽつと話をすることが日課になっていた。
特に才能もないボクがこの中高エスカレーター式の私立に入学できたのは、勉学を少しばかり頑張ったからで。こんな何もないボクが、彼と同じ空間に居れることは最早奇跡に近かった。
寮には同室の男がいる。
栗色の短い髪が特徴的で、目つきの悪い男が、いる。
あまり、仲良くはなれなさそうだ、と思っていたけれど、ボクは不思議なことにカレに惹かれ、気がつけば惚れていたのだ。特別、なにかの才能があるわけでもない凡人のボクとカレもまた、大違いだ。しなやかな体を背筋を伸ばし、凛とした表情で、弓を引くカレは間宮一葉という。派手な身なりとは真逆に弓道を部活として選ぶような、そんな男だ。
いつもやる気のなさそうな目をしているくせに、時折、蕩けるように笑う。それがどうにもこうにも愛おしくてたまらない、なんて。
「ただいま」
ボクは、可笑しいのだ。
アナタが好きだなんて、惚れているだなんて。
ボクは、可笑しいのだ。
抱き殺したい、息もできぬほど。
どうしても。
欲望を隠すように美術室に通い、ノバラと話す時間に癒しを求めている。ボクは、卑しい。ボクは、ズルい。汚い、可笑しい、可笑しいのだ。
「おかえり。小堀、喜べよ。今日の晩飯はハンバーグだぜ」
「ほんと?嬉しいな。あれ、その指はどうしたの?」
「あ?あ、ほんとだ。いつのまに切ったんだろ」
「…痛そうだね、絆創膏を持ってきてあげよう。」
赤い色が滲んだ指を、間宮は口に咥えた。その仕草が厭に性的で、ボクはす、と視線をそらし、わざとらしく絆創膏を探す。…赤が、彼にはとても、赤が似合うな。
「気づかなかったら痛くねーのに、気づいちまったら痛いのはなんでだろうな?」
そう言って無邪気に笑う間宮の姿は、ノバラとは大違いだ。と、思って直ぐにこの場面でノバラの笑みを思い出したことに疑問符を浮かべる。
それもすぐ、どうでもよくなってしまうぐらい、アナタの全てが愛おしい。好きだ。好きなんだ、間宮。
気づかなければ痛くなかった。
気づいてしまえば痛くてたまらない。
まるで、恋のようだね。
白く細い指を手に取り、絆創膏を巻きつけるボクの手のひらに汗が滲んでいた。
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