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六輪
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少しずつ完成に近づく絵を見ていると、自然と微笑みが漏れた。ボクは筆を滑らせるのが楽しかった。凡才を極めたボクに、ノバラのように大胆で斬新な発想はできないものの、一筆、一筆、丁寧に気持ちを込めて、キャンバスを白く染めることがこの上なく楽しかった。
そんなボクとは間反対に、ノバラのキャンバスは赤く染まっていった。初めの純白はもはや見る影もなく、キャンバスはどす黒い赤だ。惹き込まれそうな色合いを、直視できなかった。だからボクはできるだけ、己のキャンバスを見つめていたのだ。が、
「晃、君はつつじの花の蜜を吸ったことはあるかい?」
と、突然ノバラが口を開いた。突拍子もない質問に、ボクは記憶を辿る。
「子どもの時に一度だけ。」
「うん、僕もね、一度だけあるよ。甘くて、喉につっかかって取れない、あの味を君は覚えているかな」
「…そう、だな。鮮明には覚えていないけれど、確かに甘かったよ。どうしてそんなことを聞くんだい?」
「ふふ、まるで君のようだと思ってね」
最近、ノバラが何を言っているのかよく分からない。彼の真珠のようなまなこは、いつも遠くを見つめていた。遠く、遠く、間宮と同じように、ボクを介して一体なにを、見つめているのだろうか。
気にはなるものの、ボクはそれに触れなかった。ノバラがボクになにも聞かないように、ボクもノバラに何も、聞かなかった。
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