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ドロップの欠片・上
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下を向く大人たちの歩みが何かに急かされているように早い東京。遠野光彦は大学へ進学するために1人、物心着く頃に離れた都会へ戻ってきていた。
「…ここら辺だったような」
今年の東京の夏は猛暑日を連日記録しており、異常気象の年となっていた。ジワジワと照りつける太陽の下を、ある場所を探し歩く。幼少期に家族と住んでいた祖父母の家があるはずなのだ。
今は祖父母も他界していて空き家となっているだろうが、幼い頃の思い出を探しに戻ってきたのだ。
駅から少し離れた住宅街。門の前で打ち水をする女性に話を聞いたりして目的の家へと少しずつ近づく。
「あ…ここ、か?」
角を曲がると突然目に飛び込んでくる固く閉ざされた重厚な門。しかし風化した家紋は確かに見覚えがあった。
門の前にたどり着いた途端に色々な事を思い出した。
中に入る事は叶わないだろうが、ここで十分。
今も建物が健在であるだけで良かったのだ。
「…そこは売りには出されていませんよ」
ふと声が聞こえた方を見ると端麗な青年が隣の門から光彦を見つめていた。
白い肌に少し色素の薄い髪の毛、綺麗な男の人だ。
「いえ、住まいを探していたわけではなくて…」
カラコロと下駄の軽やかな音が夏の日によく似合う。光彦よりも背の高いその人は深い緑色の着物を着こなし、どこか艶っぽい空気を纏っている。
「では、何を?」
「実は私、幼い頃にこちらに住んでおりまして。十数年ぶりに思い出を見に参ったのです」
「…そうでしたか。疑ってしまって申し訳ない、私は隣に住んでおります花園と申します」
丁寧に頭を下げる動作すら整っている。光彦もつられて頭を下げた。
「あ、私は遠野と申します」
「ここらに来る人など滅多にいないものでして。もし新たな隣人となるお方ならお近付きになりたいと思ってしまいました」
花園の笑顔に光彦は既視感を覚えた。初めて会う人なのに…
「失礼、どこかでお会いしましたでしょうか…?」
「……いえ、初めてお会いすると思いますが」
「そうですよね、すみません。変な事を言いました」
誤魔化すように笑う。鼓動が早まっているのは変な質問をしてしまったからだ。
「ありますよね、既視感を覚える事。私もよくあります」
光彦を慰めるように優しく接する花園にまた鼓動が1段階早まった。
「わ、私はこれで…」
「おや、もう行かれるのですか」
「えぇ、寮に門限がござますので…では」
「そうですか」
苦しい言い訳のように聞こえなかっただろうかと思いながら踵を返して来た道を戻る。どうしてか花園と対面していると浮遊感が体を包む。
花園は会った事は無いと言っていたが、光彦はどうしても気になっていた。角を曲がる前足を止め、家の方を振り返ると花園の姿は無かった。そのことに少し落胆しているのに気がつくと光彦は足早にそこから離れた。
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