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「いらっしゃい、河辺くん。久しぶりねえ!」
「しばらくだね」
事前に知らせてはいたが、温かな歓待に思わず頬が緩んだ。
「おば様、おじ様、ご無沙汰してます。これ、お口に合うかどうか……」
「あら、ご丁寧にありがとう」
挨拶と共に、人気の菓子店の菓子折を渡す。松戸家に訪れるのは高校以来だが、二人とも変わらず元気そうで安心した。
お母上は老若男女問わず人気者だが、千明さんとは違う、穏やかでほっとする雰囲気がある。お父上も、笑顔はあまり見せないものの、鷹揚で人好きのする性格だ。
この二人に育てられた千明さんが、性別の分け隔てなく魅了してしまう男になろうとは……分かるような、分からないような。
「体調はもういいの?」
「はい、もうすっかりいいです。退院後の外来も問題なくて……。先輩にもご迷惑をおかけしてしまってすみませんでした」
「いいのよー! 年長者がついてるのに、申し訳なかったわね」
朝の俺の態度を見ている千明さんは、両親に対する愛想の良さに驚いているようだった。
「前から思ってたけど、君はうちの両親と仲がいいね」
「そりゃそうですよ。将を射んとする者はまず馬を射よって言うでしょう」
「え……!? 将、僕か? 僕に近づくために……?」
「まあ、半分はそうですね。……おじさんとおばさん、本当にいい人すぎなんで、俺みたいな悪い奴が近寄ってこないように注意してあげてくださいね」
「怖い……そういえば君、初めて家にあげた日から一週間くらいで冷蔵庫に何があるか把握してたな……」
確かに当初は、千明さんに信頼される立場を盤石のものにするために、ご両親と仲良くし始めた経緯がある。
でも、二人があまりにいい人過ぎて、千明さん攻略のためという考えは早々に捨てた。
学生の身分で出来ることは少ないが、役に立てる分野でなら報いたい。それに、千明さんを守ることはあの二人を守ることにも繋がるはず。少々後ろめたいが、そういうことにしている。
階段を上がった高校以来数年ぶりの千明さんの自室だ。原稿用紙と、鉛筆の芯と、千明さんの匂いが漂う。
匂いは堪能したので、深呼吸する。
(ああ、ここの空気、吸引して持って帰りたい)
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