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「この分だと比那と卯ノ花があんたの髪の毛を採取しようとしてたのも気づいてないっすね……」
「うそだー。卯ノ花さんは君と同じ学年のちょっと派手めな子だよね? 呪術じゃないんだから」
答える代わりに無言で千明さんを見つめる。
「……うそじゃ、ないん、です……?」
「小野炭さんと大井川……」
「男子も?」
「ていうか、文芸部は俺も含めて恐らく全員」
誇張ではない。程度の差こそあれ母校の高校には千明さんを見たことがない者以外は全員千明さんに一度は惚れる。
ここまで言えば信じてもらえるかと思ったが、
「君の言うことを疑うわけじゃないけど……もしこれが小説だったら、盛りすぎて書き直しを要求されるね」
少しの沈黙の後、千明さんはちょっと困ったように笑っただけだった。
まあ、一度にこんなことを聞かされても、信じろと言う方が無理か……。そもそもこの人に害が及ばないように俺が暗躍していたのだし、千明さんの鈍感さのせいだけではない。
「でも」
でも、
「……そんな風に情念の深い人たちに愛されていたのなら、ある意味幸せなのかもしれないね、僕は」
俺が至らないせいだけでもない、と思う。
「……千明さんのそういうところ、好きだけど大嫌いです」
恩に着てほしいとか、自分がどれだけ守られているか知ってほしいとか……思わないけど、この人の特別な人間には多分一生なれないだろうなとまた思う。同じことを何百回思い知らされれば諦め切れるのだろう。
「何か言った?」
「信じなくてもいいですけど、しばらくは違うカバンで大学行った方がいいっすよ」
「あーそうだね、そうするよ」
俺が卓袱台に突っ伏していても、一向に気にする様子もない。
どうせ俺は、便利でほっといても邪魔しない、使い勝手の良い抱き枕兼小間使いですよ、とすねた気持ちになる。
報われなくてもいいんだ、「千明さんのしたいようにしてほしい」と望んだのは自分だ。自分で決めたことだろう……自嘲してみたが、惨めで涙が滲んでくる。
「紫夕?」
犬小屋の犬を呼ぶように、少し持て余したような声が何度か俺の名を唱える。
鼓膜から耳小骨、内なる蝸牛に至るまでがその響きを運ぶのを喜んでいる。もっと聞きたい。でも、顔が見たい。
涙が滲んだままの顔を、ほのかな期待とともに少しずつ上げてみる。
「見て。夕陽が綺麗だよ」
「……あぁ。綺麗ですね」
見ている方向は俺ではなく、窓の外だ。
無邪気な様子がいっそ憎らしい。
赤々とした陽が沈んでいく、何気ない風景にすら、感傷的な気分を覚えてしまう。ついに最後の光までが地平線に沈み、淡いピンクと橙色だけが空に名残のように漂っていた。
帰宅を切り出そうとすると、千明さんの指が俺の後頭部を支えて、唇が重ねられた。
そのまま、卓のすぐ脇に横たえられる。撫でたり食むように挟んだりして、丹念に唇が愛撫されていく。
(ずるい)
千明さんの両肩を押して中断させる。そのまま難なく起き上がって、逆に押し倒し、自由を奪ってやる。
激しく唇を貪ると、あの人の息が荒くなり、苦しそうに胸を押し返そうとしてくる。
目の周りがほんのりと朱に染まっていた。薄く開けられた目とあいまってひどく劣情をかきたてる。胸の中の嵐が吹き荒ぶままに、また唇を押し付ける。
息継ぎをしようとする口をこじ開けて、そのまま舌を絡めた。
「あんたは、俺の欲深さを甘く見過ぎですよ」
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