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最近はドアに背を向けて寝るようにしている。
物音でうっかり目を覚まして、入ってきた人の姿を見ないように。
「……『千明さん』?」
ベッドのスプリングが二人分の体重で軋むと、条件反射みたいに体の芯が熱を持つ。
視界が遮られて、あとはもう、自分が望んでる以上の快楽に苛まれるだけ。
「う…ぁ、そこ、あんまりっ……」
もう五回目ともなると触り方や握りの強さの好みまで把握されてしまって、散々イかされる。
背中に「千明さん」の体温を感じながら顎、首、肩、鎖骨と骨の浮き出た場所を指で辿られて、勝手に身体がうねる。
背後をとられるのは苦手……落ち着かない。
千明さんを見ていただけの時、自分は誰にも見つかることのない、無色透明な観察者だった。
今や存在を暴かれて、触れられて、いやでも肉体がそこにあることを意識させられている。
「いや、それ、もういい、からっ」
大きくて縦長の親指の腹で乳首を押しつぶしたり円を描くように捏ねられたり、掌全体で撫でられたりしていると、もうすっかり下半身はその気になってる。
これって恥ずかしいことなのかな。でもぴりぴりとした痺れが快感に紐付けされるまで毎日しつこく甘噛みされれば誰だって、そうなる。
先進的な性教育にかぶれた女の友人が以前、セックスはコミュニケーションなんだって昼間から熱弁してた。喋って……というか喘いでるのは俺だけなんだけど、コミュニケーションといえるのだろうか……。
「あ、あ——っ、やだっ、それ嫌……っ」
射精した後両手で竿と亀頭を弄られて飛沫が飛ぶ頃にはもう、声を抑える努力とかベッドを汚さない気遣いとか、気が回せない。何も考えられない。
大きく開かされた大腿と腹筋が震えて、それが喉まで波及して、勝手に情けないロングトーンになる。
初めて潮を吹かされた日はひどかった。射精した直後なのに悪ふざけみたいな手つきで亀頭を責められて、排尿感と射精感の入り混じった感覚と共に尿道が痛くなるくらいの勢いで何かが出てた。
それでも目隠しは外してもらえなくて、「千明さん」はといえば、めちゃくちゃにシーツを汚した俺を労うように世話した。
やめろと言っても絶対やめてくれないくせに、俺が手を振り回したり叩いたりして抵抗するのを躾けたりはしない。
先日うっかり当ててしまった拳のせいで左の頬に青痣を作っていたのを見た時は血の気が引いたけど、彼の態度は全く変わらなかった。
「千明さん」も、勢良さんも。
時折見せるそういう態度が怖い。
怒りの感情が見える方がまだマシな気がした。やっぱり、これはコミュニケーションじゃない……気がする。
「も、無理…やだぁあっ、あ——っ」
もう何回シーツの上にぶちまけたのか分からない。縋るには頼りなさすぎる枕をきつく掴んで、泣き喚きながら懇願して……
最初に比べると、触る範囲も時間も伸びた。このまま行ったら俺の体の未到達地はなくなるんだろうな、と他人事みたいに思う。
(唇と、耳と、肩を噛まれただけだったのに、最初は……)
あ、と喉から搾り出された声と頭の中のひらめきが偶然に一致する。
規則正しい背骨の突起を唇で辿るその人は、本物の——死んだ方の千明さんじゃないのに。
今、一瞬混同してた。
シーツを取り替えている間、ソファーベッドに転がされて、「千明さん」の音を辿る。
「千明さん」が剥がれないように、一言も話さない。でも、鋭敏になった聴覚や触覚が時折拾うのは、「千明さん」ではなく勢良さんの方だった。
それなのに……
(これが、こういうことが、「千明さんとしたかったこと」だと思ってんのかな)
まるで未練を残した幽霊に心理療法を試みてるみたいだ。それかエクソシストの悪魔払い。
実際、毎日めちゃくちゃにされてるし。
まあその後に、こうやって温かいタオルで全身拭いてくれるんだけど。
でもこのままだと成仏はできない気がする。
だって俺が今一番、千明さんとしたいのは。
「紫夕、ソファーベッドから降りて。もっと広い——」
散々めちゃくちゃにした奴の足腰が、しばらく使い物にならないと思っていたんだろう。目隠しを外して抱き上げようとした瞬間に、首に回された腕に体重をかけられて、彼は珍しくうろたえた。
でもその後の、奇襲みたいなキスには、あまり驚いてはもらえなかった。
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