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「じゃあ、先生は来年には魔法使いになるんですね」
「は?」
雪本のその質問に、俺は思わず一文字で返した。
夕陽と涼風が窓から差し込む、十月上旬の放課後の教室。
机を挟んだ目の前には、俺の担当する三年A組のクラス委員長・雪本朔(ゆきもとさく)が座っている。
雪本朔。容姿端麗で物腰柔らか。白いカーテンと純文学が似合うような、誰もが認める美少年だ。
今もこうして、放課後まで授業で使うプリントのホチキス留めを手伝ってくれている、真面目な生徒でもある。
だから、俺は雪本の発したその一文に耳を疑った。
さっきの会話に至るまでの流れはこうだ。
「俺、今日誕生日なんですよ」
「おお、そうか! おめでとう」
「先生の誕生日はいつですか?」
「五月十六日。来年で三十になるんだ」
で、その後に言われた言葉が、「じゃあ、先生は来年には魔法使いになるんですね」。
魔法使い。その単語の意味は、普段鈍感と言われ続けた俺でも流石に理解していた。
つまり、三十過ぎても童貞、ということだ。
笑みをたたえたままの雪本に、慌てて聞いた。
「お、俺が童貞だって言いたいのか?!」
「違うんですか?」
俺の反論に、雪本は唇に指を当て、くすりと笑う。
そんな仕草も、妬ましいほど美しい。
…………いや、雪本に言われた通り、俺は童貞には違わないのだが。
何せ俺・綿部樹(わたべいつき)は、小学校から高校まで男子校。共学の大学へ行くも四年間一度も出会いの機会はなく、卒業後もこうして真面目に理科の教師を務めている。
でもそれを、この学校中で美男子だと女子にチヤホヤされまくっているであろう雪本に知られるのは、俺のプライドが許さなかった。
だから俺は、ふんぞり返って嘘をついた。
「せっ、先生だって恋愛経験のひとつやふたつあるぞ?!」
「本当ですか?」
雪本はくすくす笑う。いや、笑うな。
「では、試してみていいですか?」
「試す?」
聞き返す。一体何を?
そう思う間に、雪本は椅子から腰を浮かせて身を乗り出し、俺の顔を覗き込んだ。
そして、俺の唇に雪本の唇が、触れた。
「……なっ……?!」
……キス、された?
雪本が再び椅子に着いてから、たった今されたことを理解して、一気に顔が熱くなった。
動揺する俺の顔を見て、雪本はふっと笑った。
「先生、やっぱり童貞でしょ」
「なっ、ちが、おまっ、」
思わずバンッと、机を掌で叩いた。
「お前、こんなこと冗談でも、」
「じゃあ先生、童貞じゃないって証明してみてくださいよ」
しかし、俺の説教は雪本の言葉にすぐに遮られた。
雪本は薄く笑みを浮かべたまま、
「じゃないと、先生が童貞で、俺にキスしてきたって、学校中に言いふらしちゃいますよ?」
「なっ……?! いや、キスはお前が勝手に!!」
「さあ、どうだったかなあ?」
雪本はそう言って、くすくす笑う。
こいつ……こんなに性格悪かったか?!
俺の中の清純派文学少年雪本のイメージが、音を立てて崩れていく。
だが、変な噂を立てられるのは困る。雪本の言葉なら、事実はともあれ学校中が信じてしまうだろう。
俺はため息をついて、前で腕を組み、雪本に言った。
「何をさせようって言うんだ」
「俺のこと、抱いてください」
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