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真夜中、昔、通っていた店のドアを開く。
男同士の出会いの場。俺と秋人が初めて出会った思い出のバー。
全然、来ていなかったけど、何も変わっていない……
一年前、初めて訪れたゲイバー。緊張しながら飲んでいたら、秋人に声をかけられた。その日は一緒に飲んだだけ。
何度か二人で会って友達みたいな関係を続けた。『付き合おう』そう言われた時の感動は今でも覚えている。
迷わずカウンターに座る。座ったのは、あの日と同じ席。
今日、俺は秋人と決別する為、ここへ来た。
「ねぇ、マスター。ここで一番、手が早くて節操なしは誰?」
シェイカーを振るマスターに声をかける。
「……奥に座っている彼だけど、君には無理だと思うよ」
そう言われ、奥の席を見る。
人目を引く容姿だな。
胸元を開いた黒のシャツ。色を抜きすぎた金に近い茶色の髪。一言で形容するなら『遊んでいそうな男』。涼し気な目元はどこかつまらなそうで、周りに男を侍(はべ)らせてる。
「俺に魅力が足りないからですか?」
マスターに聞いてみる。
確かに難易度が高そうだ。
「そうじゃなくて……彼は恋愛を嫌っている。誰にも本気にならない。君……前に何度か恋人と一緒にこの店に来ていたよね。凄く仲が良くて幸せそうだった……」
覚えていたのか。流石、客商売。この店に来たのは数回。しかも秋人と出会った頃――一年も前の事なのに。
傷をえぐられて、やるせない気分になる。
でも、良かった。求めていた条件にピッタリだ。
「それ位の方がちょうどいいんです」
その人をもう一度盗み見る。
「俺、ワンナイトの相手を探しているだけですから」
探しているのは――
俺が泣いても嫌がっても手を出す最低男。適度にモテて後腐れない奴なら、なお良し。
「大丈夫です。絶対に好きになりません」
「……」
「ご心配なく。俺も恋愛なんてお断り。止めないでください。一年も付き合った彼氏に浮気されたんです……しかも、ずっとレス。こんな俺でも抱いてもらえる、自信をつけたくて――」
話していると目に涙が滲んだ。
こんな話を聞かされても、マスターだって困っているよ。
俺は別に出会いを求めてる訳でも恋人探しをしている訳でもない。
恋人の秋人とはセックスレスだった。
少し前から感じていた距離、違和感。突然言わなくなった、前は口癖だった『可愛い』って言葉。
誘っても躱(かわ)され、問い詰めても『なんでもない』って言われる。頑張って誘っても全部空振り。
落ち込み悩んでいたところ、トドメに浮気発覚。
『この前はデートに誘ってくれてありがとう。また泊まりに来てね』
置きっぱなしになっていた、あいつのスマホ。留守番電話に切り替わって、可愛い感じの男の声が聞こえてきた。
『デート』?
まさかの単語に呆然とする。
やめときゃ良かったのに……
つい見てしまったスマホの中身。
中には『皐月(さつき)』という名前が溢れていた。着信履歴は同じ名前ばかり。
おまけに『早く皐月に会いたい』『週末に会えるのが楽しみ』なんてメッセージも見つけてしまう。
極めつけは『月末の日曜、温泉旅行に行かない?』との言葉。その日は俺達の付き合って一年記念日。俺が泊まりに誘ったら、会社の研修会で出張だと断られた日だった。
俺に嘘をついて、旅行に行っていた……
悟った瞬間、虚しくなった。
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