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息巻いて、あいつに電話した。
言ってやれ。『お前みたいな最低な奴は願い下げだ。お前なんていらない』って。『俺の一年を返せ。この浮気野郎!』言ってやるんだ。
「秋人!」
『……どうしたの? 司(つかさ)』
優しい声に一瞬、躊躇(ためら)った。
思い出してしまったのは、幸せで楽しかった毎日。秋人の笑顔。
目に涙が滲む。
一緒にいて幸せを感じていたのに……
「なんでもない……」
何も言わず、電話を切ってしまった。
――――言えなかった。
別れの言葉を口にしようとすると声が出なくなる。
秋人が好き。別れたくない……
苦しいのに手放せない。
俺じゃない誰かに、とっくに心を奪われているのに。
多分、終わりは近い。
俺を抱かなくなった、好きだと言わない、浮気相手に熱を上げている証拠だ。
…………耐えられそうにない。
この状態で『別れてくれ』なんて言われたら、俺は取り乱さず受け入れられるのか……?
泣いて縋っても、怒って騒いでも、どうにもならないんだ。
惨めすぎる。自分が情けない。きっぱり振る事もできないなんて。
既成事実作って『俺も他に相手がいるからいいよ。じゃ、別れよっか』そう、なんでもない事のように、あっさり言ってやればいい。
心はすさみ、荒れ狂っていた。
引っかけたのはあいつに似ている優しそうな男。
『他に好きな奴がいるんじゃないの?』
『泣いてる子とはできない』
事ごとく失敗した相手に言われた。
原因は俺にある。
いざヤろうとすると涙が出る。
大抵の奴は面倒くさくなり逃げていく。
優しい男じゃ駄目だ。俺の気持ちを無視して抱く、強引で冷たい男じゃないと。
失敗を繰り返した矢先。接待がキャンセルになり早めに帰宅。秋人の家を訪れた夜の事だった。
片手にはちょっと良いワインを持って、驚かせるつもりで、連絡はしなかった。
貰っていた合鍵でそっと開ける。
寝室から漏れる喘ぎ声に愕然とした。
覚悟を決め、そっと開いたままの寝室のドアから覗く。
一糸纏わぬ姿で快感に溺れるあいつ。
それを他人事のように見つめた。
何度も一緒に眠ったベッド。
プレゼントで贈ったお揃いの枕。
息が止まりそうになる。
相手は可愛くて素直そうな男。そういう奴がタイプだったのか。
「は……皐月……」
好きな男が他の奴を抱いて、乱れている。
目を逸らしたいのに、それすらできない。
「あ、ァ……ん……」
「好きだよ。皐月」
秋人は浮気相手に優しいキスをした。
――――本当は浮気なんて勘違いだって。
俺達はまだ大丈夫だって……
誰かに言って欲しかった。
『好きだよ……』俺ではない、他の人に向けられた愛の言葉。
耐え切れず秋人の家を飛び出した。
『浮気なんてしやがって! この最低男!』
『お前みたいな奴は、もういらない!』
『望み通り別れてやる!』
一発ぶん殴ってやれば良かったのに。
用意していた別れの言葉は一つも言えなかった。
――――もう終わりなんだ。
片方が好きなだけじゃ、どうしようもない。
そして今に至る。
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