アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
青葉の部屋
-
誘ってみたはいいものの、オタク君が好みそうな場所など知らない。
アニメショップや本屋だろうか。そんな場所は小学生の時に行ったきりだ。
「で、どこ行くの?」
誘ったのは俺なので、当然の質問だった。
「……どこ行こう?」
アホみたいに返してしまった俺を、青葉がまた小馬鹿にしたように笑った。
馬鹿にされているというのに、笑顔が可愛くて俺はなにも言えなくなる。
「じゃあ、ウチ来る? 下宿だから」
「えっ、いいの?」
「いいよ。何もないけど」
いきなり自宅に連れ込むなんて、大丈夫なのか?
一瞬だけ青葉の貞操観念を疑ってしまったが、相手が男なのだから何も問題はないのだ。俺が変に意識しているだけだ。
自分だけから回っているのが恥ずかしくなった。
なぜ青葉をこんなに意識してしまうのか。男なのに。顔が可愛いからだろうか。
悶々と悩んでいるうちに、あっというまに青葉のアパートに着いた。
大学のすぐ近くという好立地。オートロック付きのようで、狭いながらも良い物件に見えた。
「どうぞ。片付いてないけど、座る場所くらいはあるよ」
「お邪魔します」
部屋の中はアニメのグッズに埋め尽くされている……などということはなかった。
ごく普通の学生の部屋だ。
衣服や本が散乱しているあたりは生活感があるが、男の一人暮らしにしては片付いている。
あっさりとスケープゴートを引き受けたのだから、彼女はいないはず。自分できちんと整理しているのだろう。俺にはとてもできない。
ひとつ、意外なものを見つけた。
テーブルの上にチューハイの空き缶が置かれていたのだ。
真面目そうな青葉の印象から離れているそれが気になった。
「未成年飲酒?」
「ああ、それね。俺一浪してるから」
「そうだったんだ。知らなかった」
「言わないからね」
「敬語使おうか? 青葉先輩」
冗談めかした俺の問いかけに、青葉が真面目な顔で答える。
「うむ、くるしゅうない」
「なんだそれ」
思わぬジョークに素で笑ってしまった。
意外と冗談が通じる。
「なんだ。全然話せるじゃん。なんでいつも1人なの? やっぱ浪人生だから?」
「そういうわけじゃないけど」
青葉が目を伏せた。聞かれたくないことなのか。
「じゃあ、なんで?」
好奇心に任せて追及するが、青葉はそっぽを向いてしまう。
「いろいろあるんだよ」
俺の問いに答えないまま、台所に行ってしまった。
冷蔵庫を開けて、閉める音がした。
怒らせたかな、と思いながら謝罪の言葉を探していると、すぐに青葉が戻ってきた。
今のやりとりは忘れたかのように、悪戯っぽい笑顔を見せている。
「飲む?」
そう言う青葉の両手に、それぞれチューハイとビールの缶がある。
「飲まんよ!」
「なに、その言い方」
慌てて変な返事をしたことを茶化された。
「いやいや、未成年飲酒だって」
「じゃあ俺が飲む」
勝ち誇ったように、青葉が床に置かれたクッションの上に座った。
プシュッと小気味いい音を立てて缶チューハイを開けながら、俺にソファーに座るように視線で促した。
「ごめん。ちょっとからかった」
「だよな。マジじゃないと思ったよ」
「慌ててたくせに」
「うるせー」
「意外と真面目だよな」
ははっ、と楽しそうに青葉が笑った。
そのまま缶チューハイを口に運ぼうとして、青葉の動きが止まった。
かと思うと、急にすくっと立ち上がる。
「どうした?」
「俺だけ飲んでんじゃん。お茶出すの忘れた」
俺は別に構わないのだけど。
そう言う暇もなく、青葉は台所に走っていく。
「あー……。麦茶しかねえ」
「じゃあそれで」
片手にグラス、もう片方には麦茶のパックが浸かったピッチャーを持って、青葉が戻ってきた。
真夏でもないのに、自分で麦茶を作っているらしい。結構マメな奴だ。
俺にお茶を出しながら、青葉が言う。
「悪いね。客とか滅多に来ないからさ。多分、初めてだな」
「俺が初めて?」
初めて、と言われると何であれちょっと嬉しくなるものだ。
そんな俺を気にすることなく、青葉が続ける。
「そうそう。あとは、親くらい」
「友達いねーの? サークルとか」
「サークルも部活も入ってない」
サークルも部活も入らないで、学科にも友達がいない。
そんな大学生活、俺には想像もできなかった。
「じゃあ、バイトは?」
「大学の図書館で雑用バイトならしてる」
「へー、そんなバイトあるんだな」
「なかなか楽しいよ。静かだし」
あまり楽しそうな表情ではなかったが、あえて指摘しないでおいた。
会話の隙間に、青葉がチューハイをぐっとあおる。いい飲みっぷりだ。
「そんなんじゃ、人恋しくなんね?」
「別に」
青葉が即答する。
多分、嘘だ。なんとなく、そう思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 10