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入学と親友③
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「赤地蒼介、愛してるんだ!付き合ってくれ」
「嫌です!」
翌日から、冴木会長のラブコールは続き…、僕はとにかく逃げ回っていた。
「良いんじゃね~の。冴木会長なら、大事にしてくれると思うけど…」
秋月は他人事だから、簡単に言っている。
大体、男同志で付き合うとか無いだろう!
毎朝、真っ赤なバラの花束と歯の浮くような愛の言葉を言われる僕の身になって欲しいと切に思う。
「赤地蒼介~」
毎回、フルネームで呼ばれて、僕はひたすら逃げ回っていた。
すると美術準備室のドアが開いて
「こっち」
っと、手招きされる。
僕は冴木会長から逃れられるなら…と、美術準備室へと逃げ込んだ。
僕を手招きしたのは、美術講師の永田先生だった。
いつも油絵具の沁みが着いた白衣を着ていて、ちょっと風変わりな先生だと聞いている。
「大丈夫?」
いつもボサボサの頭に銀縁眼鏡。
自分の容姿にこだわらないらしく、身なりを構わない感じが出てはいるが、不潔感を感じさせない不思議な人だった。
僕に紙コップに入ったコーヒーを差し出したので
「あ…すみません。僕、コーヒーが飲めないんです」
と、遠慮がちにお断りする。
すると廊下から
「赤地~!赤地蒼介~!何処だ?」
と叫ぶ冴木会長の声が響く。
「きみは…随分と冴木に気に入られてるんだね」
永田先生はそう言うと、僕に出したコーヒーを自分で飲み始める。
「ははは…どうでしょうか…」
僕が空笑いを浮かべると、突然近付いて来て僕の顎を掴んだ。
何かを射るような目で僕の顔をまじまじと見ると
「なるほど…。これは…、冴木が気に入る筈ですね」
そう言って僕の顎を掴んでいた手を外した。
「失礼な事をしてすみません。つい、美しい物を見ると観察する癖がありまして…」
「はぁ…」
何を考えているのか分からない永田先生の目が、一瞬怖いと思った。
すると永田先生はにっこり微笑み
「これはこの部屋の鍵です。又、追い掛けられて逃げ場に困ったら来なさい」
そう言うと、僕の手に小さな鍵を手渡す。
「え?でも…」
戸惑っていると
「此処は普段、私が絵を描く為にしか使いません。ご自由にどうぞ」
笑顔で言われ
「はぁ…」
と、頷いた。
すると永田先生は笑顔を浮かべたまま
「お礼は…そうですね。そのうち、私の絵のモデルになって下さい」
そう言って、僕に背を向けてまだ白いキャンパスへと向かう。
僕は苦笑いを浮かべて
「絵のモデルになるような人間では無いので…」
そう言って、手渡された鍵を絵具が置いてあるテーブルへと置いた。
すると突然、腕を掴まれ
「何を言ってるんですか?こんな綺麗な顔をして…。鍵は持って行って下さい。必要な時が来る筈ですから…」
そう言ってポケットへと鍵を無理矢理入れられてしまう。
「失礼しました」
僕が準備室を出る頃には、永田先生は無心でキャンパスに向かって絵を描き始めていた。
(悪い人じゃないのかもしれないな…)
ドアを閉めながら溜息を吐く。
辺りを見回し、冴木会長の気配が無いので教室へと戻る。
すると机の上には、何処から持って来たのか真っ赤なバラの花束と手紙が置かれている。
「…これ」
「あぁ、冴木会長が置いてった。『私の想いは、こんな物では伝えられない!』って言いながらな…。」
秋月が冴木会長のモノマネをしながら答えた。
「今日だけで、花束幾つ持ってくるんだよ…」
ぼやいた僕に、
「素敵じゃないですか!さすが冴木会長ですわよね~。」
女子が目を輝かせて呟く。
「蒼介様は、真っ赤なバラの花が良くお似合いですわ」
他の女子の言葉に、僕の目が点になる。
「え?」
「真っ赤なバラがお似合いになると言ったのですが?」
思わず聞き返した僕に、うっとりした顔の女子が繰り返した。
僕が
「嫌、そこじゃなくて…僕の事…」
戸惑って聞くと
「蒼介様だなんて、慣れ慣れしかったですか?申し訳ございません。では…赤地様と…」
そう答えられた。
「えっと…、同じクラスだよね?」
「はい」
「クラスメイトに様って…変じゃない?」
思わず聞いた僕に
「何をおっしゃっていらっしゃるのですか!」
と、突然、彼女が立ち上がって叫んだ。
「蒼介様を初めて入学式で拝見した時、絵本の中の王子様が目の前に現れたかと思いましたわ」
そう力説すると、他の女子達が騒ぎ出す。
「何をおっしゃっていらっしゃるの?蒼介様は天使様ですわ!王子様なんて所詮、人間ではないですか!」
「そうですわよ!この光り輝く美しさ…は、私達、人間の範疇を超えていらっしゃるのが分からなくて!」
喧喧囂囂と言い合いをした後、僕を見て
「天使様…」
って、うっとりとした顔でクラスの女子達が僕の顔を見る。
僕が助けを求めて秋月を見ると、楽しそうにクスクス笑っている。
「良いんじゃね~の?天使様」
の言葉の後に、秋月がぷっと吹き出す。
僕が秋月を睨み付けている間も
「冴木会長が夢中になるのも、わかりましてよ」
「そうそう。私なんて、同じクラスになって他のクラスの方々から羨ましがられますもの~」
と、楽しそうに本人を目の前に盛り上がっている。
(誰か…嘘だと言って欲しい)
呆然としている僕に、秋月は
「嫌われるより、好かれてるんだから良いんじゃないの?」
って、呑気に言ってるけど…。
「はぁ…」
大きな溜め息を吐いた僕に
「そんなに深刻な事か?」
と、秋月に呆れたように言われてしまう。
天使様とか言われてしまう、こちらの身にもなって欲しいもんだ。
そう考えていると、秋月が自分の顎を指して
「どうした?ここ、怪我でもしたか?」
と聞いて来た。
「え?」
驚いて顎を触ると、赤い絵の具が着いていたみたいだった。
「絵具だ…」
制服のポケットからハンカチを取り出すと、ポケットから鍵がポロリと落ちる。
秋月は鍵を手に取り
「何の鍵だ?その絵具と関係あるのか?」
怪しいという顔をして僕を見る秋月に苦笑いを返す。
「冴木先輩に追い掛けられてる時に…ちょっとな」
言葉を濁すと
「お前、まさか永田から鍵を貰ったんじゃないだろうな?」
と、低い声で秋月が聞いて来る。
確信を突かれて思わずドキリとすると
「悪いことは言わない。あいつには気を付けろ」
珍しく真剣な顔で秋月が呟いた。
「気を付けろって…」
思わず聞き返そうとした時、5時限目のチャイムが鳴り響いて、そのままうやむやになってしまった。
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