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戸惑う感情⑩
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「はい、すみません。私がついていながら…」
遠くで田中さんの声がする。
目を開けると、僕は旅館の部屋で眠っていた。
田中さんの声がする方に視線を向けると、田中さんが電話しながら頭を下げている。
「はい。取り敢えず、熱が下がったらご自宅へ送り届けます」
田中さんはそう言って電話を切った。
「田中さん?」
僕が声を掛けると、田中さんがゆっくり近づいて来て
「目が覚めましたか?気分、悪くないですか?」
そう言われて、頭を撫でられる。
「ごめんなさい」
ぽつりと呟くと、田中さんは小さく微笑んで
「なんで謝るんですか?体調不良は、不可抗力ですよ」
そう言ってくれてる。
「ご自宅と学校には連絡しました。明日まで学校をお休みするようになってしまって、こちらこそすみません」
申し訳なさそうに言われて
「田中さん!会社は!」
僕は慌てて起き上る。
クラッっとして倒れそうになるのを抱き留められ
「気にしないで下さい。ちょうど、有給もたくさん残っていますし」
そう言われて、再び寝かされる。
「翔さんの送迎は、長年社長の送迎をしてくださっている方に頼みましたし。赤地さんはとにかく、何も気にしないでゆっくり休んで下さい」
って言うと、僕の布団を直して頭を撫でた。
「お腹空いてますよね?何か食べますか?」
と訊かれて
「川床〜」
って涙目になって言うと
「大丈夫ですよ。明日、やってもらいましょう」
そう言って、田中さんは優しく微笑んだ。
すると部屋の入り口がノックされ、田中さんがドアを開けると
「陽一、なんだお前、帰って来てたなら連絡くらい寄越せ!」
って大きな声。
「静かにして下さい!病人が寝てるんですから!」
田中さんがヒソヒソ声で怒ると
「あ?俺が呼ばれてるんだから、そんなの分かってるわ!この不義理小僧」
と大きな声が聞こえると
「ちょっと!鼻を摘まないでください!」
って、田中さんが怒ってる。
「ったく、あんな可愛かったのによ。クソ生意気な野郎に成長しやがって」
溜息混じりに呟く声が近付いて来る。
そして僕の隣に座ると
「よう、坊主……って、こりゃまた綺麗な子だな。本当に男の子か?陽一」
髭もじゃの熊さんのような人が僕の顔を覗き込み、田中さんに驚いた顔で叫んだ。
「そんなの、これから診察するんですから、御自身で確認出来るでしょう。それに、あまり容姿の事でとやかく言うのは止めて下さい。それで傷付く人だっているんですよ」
田中さんが怒った顔で言うと
「はいはい、褒めたんだろうが…。ったく、口煩い男だ」
熊さんみたいな人は、溜息混じりで鞄から聴診器を取り出しながらぼやいている。
「名前は…赤地蒼介君か。診察するから、少し起きられる?」
そう言われて、僕はゆっくり起き上がる。
「浴衣、脱がなくて大丈夫だからね」
って言われて、聴診器を当てると、何度か胸の所で首を傾げてから
「ごめんね。前だけ合わせを少し開けるよ」
と言われ、昨日のあの事件の跡を見られてしまい、熊さん先生の手が一瞬止まる。
でも、何も気付かないフリをして
「気管支、弱い?軽く炎症してるみたいだから、薬出しとくね。解熱剤は持って来たけど、炎症止めは後で旅館の人に取りに来てもらうから」
熊さん先生はそう言う、僕の腕を掴んで浴衣の袖を巻くると
「それから赤地君、なんだこのモヤシみたいな身体は!飯食ってるのか!肉食え!肉!」
って怒鳴られた。
「お肉は…あまり得意では無いです」
小さくなって呟くと
「ったく。こんな青白いひょろっちい身体してるから、虚弱体質なんだよ」
って言われてしまう。
「細井先生…、それは言い過ぎではないですか?」
田中さんがムッとして言うと
「あ?知ってるか、坊主。こいつなんかな、ガキの頃はヤンチャでな。近所の柿の木登って、柿盗んで怒られたり、竹林で竹の子掘って追っかけられてたんだぞ。だから見てみろ。あんな偉そうな、クソ可愛くない大人になりやがって」
と話し出した。
「ちょ…!細井先生!俺の子供の頃の話は関係無いでしょう!」
真っ赤になって怒る田中さんに、僕は思わず吹き出した。
「赤地さんも、笑わない!」
真っ赤な顔して照れている田中さんが可愛い。
クスクス笑っていると、熊先生が僕の頭を撫でて
「よく寝て、よく笑って、よく食え。それが一番の薬だ」
そう言って立ち上がった。
その時、視線に熊先生が田中さんに何か目配せしたのに気付く。
「赤地さん、ちょっと先生を送って来ますね」
と言って、2人で部屋を出て行った。
凄く気になって、ゆっくりと起き上がって入り口まで歩く。
入り口に着くと、ボソボソと話声が聞こえる。
「びっくりした。お前の愛人かと思ったぞ」
「はぁ?何言ってるんですか!そんな訳ないでしょう!」
「そっか、可哀想にな…。あれだけ見た目が綺麗だと、変な輩の餌食になっちまうもんなのかね…」
熊先生が溜息混じりに呟く。
「取り敢えず、心因性のものかもしれないから、今日明日はちゃんと面倒見てやれ」
「わかりました」
と話が終わりそうな気配を感じ、そっと布団に戻る。
情けない…。
昨日の段階で迷惑掛けて、今日まで…。
泣きたくなって、腕で目元を隠す。
すると襖が開き、田中さんが入って来た。
「赤地さん?具合悪いですか?」
って訊かれて、僕は必死に笑顔を作って首を横に振る。
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