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戸惑う感情⑬
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川床って、分かり易く言うとベランダの広いヤツみたいだった。
床の下には川が流れていて、朝は少し寒かった。
「まだ寒いですか?」
田中さんはそう言うと、自分の着ていた上着を僕に掛ける。
「え!でも…これじゃ田中さんが寒いです」
慌てて脱ごうとすると、田中さんは
「良いから掛けていてください。あなたは病み上がりなんですから…」
そう言って前の席に座ってしまう。
どうしようかと困っていると、女将が
「あら!やっぱり正解ね。はい、陽一」
そう言って、女将がもう一つ上着を持って来てくれていた。
僕が疑問に思っていると、女将は小さく微笑んで
「多分、一枚だと貴方が寒がるだとうから…と、さっき連絡して来たのよ。」
そう答えた。
すると田中さんは咳払いして
「伯母さん、余計な事は言わないで下さい」
と、女将さんを睨んでいる。
女将さんはそんな田中さんを気にせず
「はいはい、すみません。」
と言いながら、料理の支度を始めた。
「身体はもう大丈夫?」
笑顔で聞かれて
「はい、ご迷惑をお掛けしてすみません」
と、頭を下げると、女将さんは驚いた顔をしてから
「何言ってるの!お陰で、私はあなたが眠っている間に、この可愛げのない甥っ子と話が出来て感謝してるのよ。この子、此処に来るのは本当に久し振りなんだから」
そう言って微笑んだ。
女将さんの笑顔は、どこか田中さんに似ている。
支度をしている女将さんに、あれこれ言われながら手伝う田中さんに笑みが溢れる。
こんな時間も残りわずかと思うと、切なくなる。
気持ちを紛らわす為に川へと視線を移した。
川床から見える川が、朝日できらきら輝いていて綺麗だった。
その時、ピシャリと水音が鳴る。
僕は川床の手すりから川を覗く。
すると川魚が川面から飛び跳ねる。
「田中さん!魚!見ました?今、飛び跳ねましたよ!」
思わず身を乗り出して見ていると
「赤地さん!落ちますよ!」
って、慌てる田中さんに腰を抱えられる。
すると女将が吹き出して
「まるで親子みたいね…」
って笑い出した。
「親子って…そんなに年齢は違いませんよ!」
田中さんが女将さんの言葉にムッとすると、女将さんはクスクスと笑っている。
「さぁ、お食事の支度が出来ましたよ」
女将さんに微笑んで言われ、田中さんが腰を抱いていた僕をそのまま回れ右で床へと下ろす。
「はい、大人しく食事して下さい。食べた後、河原を散歩する時間を取りますから」
って、苦笑いされてしまう。
僕は恥ずかしくて小さくなりながらテーブルに座る。テーブルには美味しそうな料理が並んでいて、アユの焼き物とサラダ。土鍋でご飯が炊かれていて、お味噌汁とおしんこが並んでいた。
田中さんも席に座ると、女将さんが土鍋の蓋を開ける。
すると中に小さな鮎が二匹並んでいた。
「稚鮎の炊き込みご飯ですよ。此処でしか食べられないから、美味しいわよ」
女将さんは土鍋をかきまぜて、僕にご飯を差し出す。
田中さんと二人、揃ってから
「いただきます」
って手を合わせて食事を取る。
初めて食べる稚鮎のご飯は、物凄く美味しかった。
「え!凄い美味しいです!」
普段、食欲があまりないのに、人生初と言っていい位におかわりをした。
「こんなに食べてくれるなら…お夕飯も食べて欲しかったわ…」
残念そうに呟く女将さんに
「又、連れてきますよ…」
って、田中さんが苦笑いを浮かべて答える。
僕は田中さんのその言葉が嬉しくて、泣きたい気持ちになった。
又、此処で一緒に過ごせるんだと思うだけで胸がいっぱいになる。
すると女将さんは僕の手を握り締めて
「絶対よ。絶対、又、遊びに来てね」
そう言って微笑んだ。
「はい、ありがとうございます」
僕が笑顔で言うと、女将は安心したように微笑み頷く。
食事を終えて、僕と田中さんは部屋に戻って着替えを済ませた。
田中さんは気を遣ってくれて、僕と部屋に戻ると自分の着替えを持って脱衣所へと入って行く。
田中さんは着替えを普段から車に入れているらしく、少しラフな普段着姿で現れた。
僕が制服に着替えると、制服がクリーニングされている。
「私のスーツと一緒に、制服はクリーニングに出しておきましたよ」
田中さんはそう言って部屋をチェックアウトをすると、約束通り旅館の裏側にある川辺を少し散策した。
「あの…、最後にお願いがあるんですど」
散歩しながら、ぽつりと呟く。
田中さんが不思議そうな顔で僕の顔を見る。
「この後、田中さんのご両親のお墓参り、行きたいです。僕が倒れて、昨日行けなかったので…」
そう言うと、田中さんが驚いた顔をする。
「ですが…」
「此処にいる間、我が儘聞いてくれるんですよね?」
必死にそう言うと、田中さんは小さく笑って
「そう言われたら、仕方ないですね」
って言うと、僕の頭を優しく撫でた。
その後も、少し川辺を2人で並んで歩く。
水も空気も澄んでいて、本当に気持ちが良い。
他愛のない話をしながら散策した後、車に戻って田中さんのご両親の眠るお墓へお墓参りに行った。
僕は途中の花屋さんでお花を買って、山奥にあるお寺の中にあるお墓へと向かう。
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