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戸惑う感情⑭
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お寺の駐車場に車を止めると、お寺の住職さんらしき人とすれ違った。
すると
「陽一君?やっぱり陽一君か!」
そう声を掛けられる。
田中さんは作り笑顔を浮かべると
「ご無沙汰しております」
と、深々とお辞儀をして挨拶をした。
「あまり顔を見せないから、ご両親は寂しがっていると思いますよ。無理にとは言わないですが、年に一回くらいは顔を見せてあげて下さいね」
そう言われて、田中さんが苦笑いを浮かべる。
僕はその間、手桶に水を入れてひしゃくを持って住職さんに気付かれないように田中さんの所へと戻った。
「気を遣わせてすみません」
と田中さんに言われて、僕は首を横に振った。
無言でお墓まで案内されると、お墓は綺麗に整備されている。
僕は花立をお墓から抜くと、お水を入れに水道へと向かう。
花立を洗い、水を入れてから持って来た花をそこで生けてゴミ箱へ花を包んでいたゴミを捨てて戻る。田中さんは戻って来た僕が花立をセットすると、お線香を手渡した。
この間、僕達が会話する事は一度も無かった。
僕はお線香をお線香置き場へ横にして置くと、田中さんも続いて置いて手を合わせた。
心の中で
(田中さんのお父さん、お母さん。僕は田中さんにたくさん助けて頂いています。お2人のお陰で、田中さんと出会えました。僕と田中さんを出会わせて下さり、本当にありがとうございます)
って、心を込めてお礼を言った。
挨拶が終わってから顔を上げると、田中さんが不思議そうな顔で僕の顔を見ている。
「どうかしましたか?」
不思議に思って聞くと
「いえ…。ここは神社じゃないのに、長いな~と…。私の両親にお願い事をしても、願い事は叶いませんよ」
って、笑われてしまう。
「分かってますよ!お願い事なんてしていません!」
プクっと頬を膨らませて反論すると
「でも、随分と真剣に手を合わせていらしたので…つい…神社と間違えているのかと…」
と、田中さんが笑っている。
僕はその笑顔につい
「お礼を言ってたんです…」
そう答えてしまった。
すると田中さんの笑顔がゆっくりと消える。
「え?」
「僕、何度も田中さんに助けてもらってるので、出会わせて下さった事に感謝してたんです!」
口を尖らせて反論したつもりだった。
でも…その言葉を聞いた田中さんの顔が、悲しそうな…苦しそうな…まるで罪を背負ってしまった人のような顔になった。
(え…?)
僕には、何故その時に田中さんがあんな表情をしたのか分からなかった。
「戻りが遅くなりますので…、急ぎましょう」
突然、田中さんは時計を見ると、そう言って運転席へと行ってしまう。
(僕…何か失礼な事を言ったのかな?)
その後の、田中さんの硬い表情に不安が広がる。
自宅までの道のりも、会話らしい会話はほとんどしなかった。
別れ際、
「あの…、色々とありがとうございました。又、連れて行ってくれますよね?」
胸に広がった不安についそう訊くと、田中さんは僕の頭を軽くポンポンとして、曖昧な笑みを浮かべただけだった。
その翌日から、田中さんは僕を避けるようになっていった。
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