アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
〜昴流side〜
「あ、おはよう。今日バイト?」
土曜の朝、着替えを済ませてリビングに行くと、母親、明希は既に起きていた。
使ったあとのコーヒーカップと、パンくずの乗った皿。
父、翔也は朝食を終えて出勤したらしい。
「ご飯食べる?」
「いらない。」
「お昼は?お金ある?」
「大丈夫。夕飯もいらねえから。」
「そっか、わかった。今日ピアノのお稽古の日だよね?これ月謝持って行って。」
「ん。」
必要最低限の返事だけして、顔を合わせることもなく玄関に向かう。
封筒に入ったお金は、貰わなくてもいいのだが、自分のアルバイト代から出すと先生が受け取ってくれなかったため、仕方なく親から貰っている。
「気をつけてね!」
玄関まで来てくれた明希に返事をすることなく、昴流は家を出た。
歩いて最寄り駅まで向かい、電車に乗って数駅。学校の最寄り駅に着く。
家から少し離れた商店街にある靴屋が昴流のアルバイト先だ。
「おはようございます。」
「おはよう。あれ?髪色変えた?」
前回アルバイトに来た時はまだ銀髪だったため、社員の1人、鷺原(さぎはら)にそう言われる。
「はい。」
「今度は赤かー。いいなぁ。」
「内田さんも染めてるんじゃないんですか?」
スタッフルームにいた店長の内田(うちだ)が昴流の髪を見ながら羨ましそうにする。
内田の髪の色は明るめの茶髪だ。
「ううん、これ生まれつき。元々色素薄いんだよね。瞳とかもそうなんだけど。」
「確かに……目も色薄いかも……」
鷺原が内田の顔をじーっと見ながら頷く。
「でしょー?染まりすぎるから思った色が出ないんだよねぇ……まあ、別に今の髪色好きなんだけどさ。」
「内田さんはそれで似合ってると思いますけど……」
「ほんと?木之本くんセンスいいからそう言われると嬉しいなぁ。」
明希と同い年の男だが、どうも可愛らしいところがある。
それに加えて、鷺原が『店長は時々変な男引っ掛けるから注意して』と新人バイトに忠告を出すほど危機感がない。
昴流は高校1年生の時からこの靴屋にいるので、2年目に入ったが、確かに内田は危ういと思っていた。
「さて、店開けますかー。」
「そうだね。俺ちょっと事務仕事してからにするから、2人で先用意してて?ごめんね。」
「了解っすー。」
「わかりました。」
鷺原と2人で店の掃除をし、靴を並べてシャッターを開ける。
レジの入金も済ませたところで、内田がこちらにやって来た。
「おわ、早いね。さすが鷺原くんと木之本くんー。今日混むと思うけど頑張ろうね!」
「うぃーっす。」
「はい。」
鷺原は20代の社員で、適当に見えるがファッションセンスと接客センスはピカイチだった。
「昼には人増えるから、そこまで乗り切ろう。木之本くんは15時までだから……どこかで休憩行こうね。」
「はい。」
表に看板を出し、客が来るまでは靴の整理をする。
何人かに接客しながら、他の作業も進めて、途中で30分休憩を貰えば、残りの時間はあっという間だった。
「よし、木之本くんお疲れ様!」
「大丈夫ですか?30分なら働けますけど。」
「平気だよ。ありがとう。」
「じゃあ、お先上がります。」
「うん、お疲れ様。」
「おー、すばくんお疲れー。」
「鷺原さんお疲れ様です。」
「昴流さんお疲れ様です!」
「お疲れ。」
年下のバイトたちにも挨拶して、スタッフルームで荷物をまとめる。
服は私服で勤務しているため着替える必要はない。
「お疲れ様でした。お先失礼します。」
声をかけてから店を出て、学校とは反対方面に少し歩く。
大きなマンション、ここが昴流のピアノ教室だった。
昴流はフィギアスケートとピアノを幼い頃から習っていた。
そのうち、ピアノの方は親の知り合いの先生に教えてもらっている。
1階で部屋番号を押し、ピンポン、とチャイムを鳴らすとエレベーター前の扉が開いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 189