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〜春陽side〜
4月11日
「おはよーございまーす……」
「おはよう、赤津。死にそうな顔ね。」
「あはは……ちょっと寝不足気味で。」
青木探偵事務所、一応春陽が代表を務める事務所。
スポンサーは烏沢グループのため、所長は紘だ。
春陽の母親、恋の両親がかつて行っていた探偵業をベースに仕事をしていた。
ペット捜索から事件捜査まで、何でもござれの事務所である。
本来探偵に事件調査の依頼は舞い込んでこないのだが、この事務所には元警察官、元弁護士などの所員もいるため、その関係者からの依頼がくる。
とはいえ、平和な月はお年寄りのお手伝いで終わることもしばしばであり、もはや萬屋と名乗った方がいいのかもしれない。
「早速で悪いけど、一昨日言ってた事件調査、正式依頼が入ったわよ。5年前の事件みたい。」
そう言って資料を差し出してきたのは、眞ノ宮麗亜(まのみやれいあ)。
元警察官で、紘を除けば探偵事務所チーム最年長の31歳。その美貌と鋭い観察眼を武器にする頼れる女性だ。
事件調査の依頼は基本的に彼女を通してもらうことになっていた。
「春陽、こっちも資料追加されたぞ。」
奥のIT室から、キャスター付きの椅子を動かして顔だけ出した男は篠宮千燈世(しのみやちとせ)。
24歳と比較的若いながら、パソコンなどの機器の扱いに長けており、このチームの情報整理と作戦立案担当だ。
「OK、麗亜さん、そっち後で目通すので、先進めといてもらっていいですか?」
「わかったわ。」
麗亜は隣の応接室兼打ち合わせ室に入っていく。
そこにはすでにもう1人の所員の三矢(みつや)よるの姿がある。
よるは15歳だが、親の虐待から逃げてここにやってきた。
ここで寝泊まりしているため、仕事を手伝うことで家賃などの代わりにしたいと言われ、チームに入れた子だ。
チームに入れる条件として、紘と春陽の指示には絶対に従うこと、学校に通うことがある。
危険な仕事をさせるつもりはない。
「シノさん、見せて。」
「これ。」
「スーパーの防犯カメラだね。」
千燈世がパソコンを操作し、動画が再生される。
盗難された車の捜索依頼だった。
「この一瞬映ってるやつ、似てねえか?」
「確かに。警察に回して詳しく解析してもらおう。」
「OK。」
ここは千燈世に任せ、春陽も打ち合わせ室に入る。
「赤津、これ見て。」
「これって……」
「今預かってる事件と酷似してるわ。」
依頼されたのは自殺として扱われた事件の再調査。
その自殺状況が、今も調査中の自殺事件と酷似していた。
「うわぁ、これは調査しなおしっすね。」
「そうね……よる、烏沢社長に電話してきて。」
「はい。」
打ち合わせ室からよるが出ていくのと同時に、探偵事務所の扉が開いたことを示すベルがなった。
「ようこそ、青木探偵事務所っと、千秋さんか。」
「朝からごめんね。紘さんも来てるから。」
「あっ、ほんとに?よるー!電話しなくていいよ!」
受話器に手をかけていたよるを止める。
紘が来てくれたならそのまま仕事の話ができる。
「瑛斗、おはよう。」
千秋に抱っこされた烏沢瑛斗(からすざわえいと)にも話しかける。
瑛斗は小さな声で、おはよう、と返してくれた。
「ふふ、ほんと春陽くんには懐いたよね。」
「紘さんにまた嫉妬されちゃう。」
瑛斗は、父親からの虐待を受けて施設に入った子だった。
大人しく、物静かで、大人を怖がる。
瑛斗が怯えずに接してくれるのは千秋と春陽だけだった。
紘のことは好きなようだが、怖さがまだあるらしく、躊躇いなく話したり抱きついたりはしない。
「春陽、朝から悪いな。」
「あ、おはようございます。むしろちょうどよかった、今連絡しようと思ってたんです。打ち合わせ室に麗亜さんがいるんで、とりあえず資料を見せてもらってください。俺はその間に別の資料用意するので。」
「うん、わかった。」
「よる、千秋さんにお茶出して。」
「はい。」
「ごめんシノさん!事件ファイル12番の資料出してもらっていい?自殺のやつ。」
「おん?どうしたんだ?」
「ちょっと、今回の事件と関連ありそうで。」
「ほーん、わかった。春陽のパソコンに送るわ。」
「ありがと!」
電子でも紙でも保管してあるデータ。
春陽は紙のデータの方を探す。
「ん?瑛斗、どうした?」
いつの間にか足元に近寄ってきていた瑛斗。
学校に通っていない瑛斗は、平日の昼間はこの探偵事務所勉強しているのだが、とても賢い子だった。
仕事を邪魔するようなことはしたことがない。
「ん?」
クイクイ、とズボンを引っ張られる。
それから瑛斗の視線の先を追い、探偵事務所の窓の外を見ると、男が1人、こちらを覗いていた。
春陽と目が合うと、その男はすぐに立ち去ってしまい、顔もあまり見えなかった。
「お客さん教えてくれたんだな。ありがとう。」
そっと頭を撫でると、瑛斗はほんの少しはにかんだ。
「ママのとこ座ってな?」
こく、と頷いた瑛斗は千秋の隣にぴとっとくっついて座って、本を読み始めた。
(……さっきの、誰だったんだろう。)
少し引っかかったものの、春陽は再び資料を探し始めた。
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