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〜明希side〜
「まだ弾いてるの?」
「ん?うん、そうみたい。」
昴流が珍しく自分から話しかけてきた今日。
合唱コンクールで伴奏をすることになったらしく、しばらく部屋にキーボードを置きたいと言ってきた。
少し聞こえる音は、時々詰まったり、戻ったりしながら、もう2時間近く続いている。
「まだ学校始まったばかりなのに、もう曲とか決まってるんだね。」
「ふふ、去年は伴奏なんてやりたくないからやらないって言ってたのにね。」
「ほんとなぁ。ピアノやったりしないのか、って聞いたら、すごく嫌そうな顔してたもんなぁ。」
1年生の時には伴奏なんて絶対にやらない、とものすごく苦い顔で言っていたのに、今年のこの様子。
(いいクラスだったのかな。)
明希は翔也が食事を終えた食器を下げながら、そんなことを思う。
「翔也さんお風呂入ってきたら?」
「うん。悪いね、片付けもいつも任せきりで。」
「ううん、いいのいいの。仕事は在宅だし、家事ないとやること無くて暇になっちゃうし。」
「いつもありがとう。」
ちゅ、と一瞬触れた唇を受け入れ、にこりと微笑む。
バスタオルや着替えを脱衣所に置き、翔也がシャワーを浴びている間に洗い物を済ませる。
それから洗濯機に洗濯物を入れて、予約ボタンを押し、昴流のためにココアを入れる。
まだ夜は冷え込む。
「昴流、入るよ?」
「あぁ……」
気のない返事が返ってきて、そっと部屋の扉を開ける。
昴流を見ると楽譜とにらめっこしていた。
「ココア置いておくからね。あまり遅くまで頑張りすぎないように。」
「んー……」
あまり近くに置くと危ないと思い、キーボードからは少し離れた位置にある勉強机にココアと、ドーナツを置いて部屋から出た。
リビングに戻ると、シャワーの音がやんでいて、明希は冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぐ。
風呂上がりの翔也は麦茶を飲んだあと、いつもコーヒーを飲むので、麦茶はテーブルに置き、湯を沸かす。
(今日は少し冷え込むし、温かい方がいいよね。)
その日の気温で、アイスコーヒーにするかホットコーヒーにするか、明希は感覚で決めていた。
翔也には、自分でやるからいいのに、と言われたこともあるけれど、翔也のためにコーヒーを入れる時間も楽しいので、と明希の希望でやることにしている、
「あ、お茶ありがとう。」
「いいえ。」
「昴流寝てた?」
ピアノの音が聞こえなくなったからか、翔也がそう聞く。
「ううん、楽譜とにらめっこしてた。ココア置いてきたんだけど、あの感じだと冷めちゃいそう。」
「そっかぁ。」
翔也がお茶を飲み、空になったコップを流しに持ってくる。
「あーきちゃん。」
「なんですか?構ってちゃん?」
抱きついてきたのにくすくす笑うと、翔也が明希の肩に顔をぐりぐりと擦り付けてくる。
「いつも本当にありがと。大変だよね……ごめんね。」
「ううん、毎日楽しくやってます。昴流のことは少し心配だけど……」
1度家で翔也と大喧嘩して以来、昴流はあまり話さないし、翔也に対しては特に反抗的だった。
「はぁー……俺が悪いんだよなぁ……」
「そんなことないよ。それに決めたでしょ?俺たちは昴流の味方でいるって。ずっと寄り添っていくって。」
「……うん、そうだよな。」
「ふふ、大丈夫。昴流もそのうち、大人になるから。それまで俺たちは、決して見捨てないで、ずっとそばにいてあげたらいいと思う。どんな昴流も、俺たちは受け入れないと。」
「そうだね……でも、今回は赤かぁ……」
「え?」
「髪の毛だよ髪の毛……俺も学生時代はやんちゃしてたけど、赤髪はないぞ赤髪は。」
「昴流の髪の色、気になるの?」
「明希ちゃんは気にならないの?」
「うーん、最初は気にしてたけど……」
(わかっちゃったからなぁ、あの髪の色の理由。)
「……ふふっ。」
「えっ、なになに、なんでちょっと訳知り顔なの。ねぇ明希ー?」
「ふふ、内緒ですー。」
するりと翔也の腕から抜け出して、マグカップを取りに行く。
「ええ、教えてよー。」
「だぁめ。自分で気がつくか、昴流に教えてもらってください。」
「ええぇ、けちぃ……」
子どもみたいに拗ねる翔也を見て、明希は思わず吹き出す。
(ほんとは、似たもの同士なんだけどな。)
明希は昴流の部屋をちらりと見やって、そんなことを思った。
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