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〜空夜side〜
4月19日
パート分けも済み、昼休みは各パートごとに音取り練習を進めてきた。
空夜はテノールパートで、パートリーダー(*)を任された。
テノールのメンバーは、兼や光樹、宏樹をはじめ協力的なメンバーだ。
一方バスパートは、音楽にあまり強くないメンバーが揃ってしまい、パートリーダーの昴流も苦戦している。
やる気はあるのだが、音取りやリズムが上手いこと合わないのが現状だ。
(バスパート難しいしなぁ……バスにしては高い音程もあるし……)
女子パートも、アルトパートは音取りになかなか苦労していた。
昴流が吹奏楽部の理央にパートリーダーを任せたのだが、アルトは大人しい子揃いで、声量も足りていない。
始めたばかりというのもあるが、音取りと声量アップの両方を進めていくのはなかなか骨が折れそうだった。
(ソプラノはすごいなぁ……)
亜美香がパートリーダーをやると申し出たため、そのまま任せたようだが、主旋律の多いソプラノは音取りも早く、声量も申し分ない。
すでに細かい技法に手を伸ばしていた。
「くうちゃーん?どっかいっちゃってる?」
兼に話しかけられてハッとする。
「ごめんごめんっ!えっと、もう1回36小節目の頭から入って。」
少し前から音源を流し、合図を出す。
「1、2、3……」
最後まで歌い終わると、音源を止める。
「うん!今のすごく良かった!大分音取れてきたし、声量もバッチリだから、次は強弱と速さを、少しずつやって行こう。」
今日は前半のパート練習を終えた後、皆で合わせてみることになっていた。
例の指揮者オーディションである。
「くーちゃんは指揮練習しなくて大丈夫?俺たちももう1回確認で歌って、くーちゃん指揮振る時間あるよ!」
光樹がそう声をかけてくれた。
「そうだね。俺たちくーちゃんの声聞きながらやってきたし、その声なしでもやってみたいかも!」
すっかり定着した『くーちゃん』呼び。
宏樹までそう呼んでいる。
「そーそー!きゅーちょーの言う通りっ!」
いつも元気な裕貴に、空夜の緊張も少しほぐれた。
「ありがとう。じゃあ、確認も込めて1回通そっか!」
ピアノの音源だけのものに切り替えて、手を構える。
音源を流し、テノールのメンバーに向けて指揮を振る。
1曲通して、最後に手を閉じると、その拳が震えた。
「くーちゃんすごい!やっぱ振れてるじゃん!」
「ほんとすごいね!俺たちに合図もくれてたよね!」
光樹や宏樹など数人からワイワイ囲まれて、照れくさい。
恋に動きがわかりにくいところがないかなど見てもらったり、陸玖に向かって振ってみたりと色々練習したかいがあった。
パンパンッ、と手拍子が聞こえ、歌が止む。
昴流がキーボードを用意し終えたようだった。
「じゃあ予定通り、オーディションやります。最終的には多数決で、どちらがいいか決めたいと思う。もちろん俺も投票する。どっちから先に振る?」
昴流が亜美香と空夜を交互に見る。
「じゃあ、私から。」
にっこり笑った亜美香が前に出る。
「多分、椅子乗った方が見えるから、上履き脱いで椅子上がってみて。」
「うん、わかったぁ、ありがとぉ。」
隣に立つ兼が、うぇと顔を顰めこちらを見てくる。
顔が面白すぎて笑ってしまうのでやめて欲しい。
「えっとぉ、始めまぁす。」
昴流の空気が変わって、それと同時にクラスもほんのりピリッとしたいい空気になる。
(初めての練習でこれか……すごいな、このクラス。)
亜美香の指揮で1曲通して、空夜はすぐにわかった。
(昴流が引っ張ってる……)
青鷺は、テンポが何度も何度も変わる。
伴奏と歌が早くなりすぎてもダメだし、遅すぎて重たくなってもダメだ。
それをコントロールするのが指揮者。
それなのに、昴流がテンポをコントロールしていて、皆もそれに合わせてしまっている。
「……よしじゃあ、みんなすぐで悪いけど、少ししたらもう1回通すよ。」
亜美香が戻ってきて、今度は空夜が出る。
(どうしよう、どうしたら今のみんなが指揮を見る癖をつけてくれるかな……)
この先亜美香が振ろうが、空夜が振ろうが、最初から指揮に引っ張られていく癖をつけなければダメだ。
「昴流。」
「ん?どうかした?」
「俺音源でずっと練習したから、上手くいくかわかんないけど、俺の指揮で弾いて欲しい。」
「あ?元からそのつもりだけど……どうかしたん?」
「さっき、昴流が曲を引っ張ってるように聞こえたから……」
「あー……そういうこと。テンポ変える気配がないから、勝手に弾き散らした。ごめん。」
「ううん、いいんだ。よろしくね。」
「おー。」
椅子に上がって、手を叩く。
「やります。えっと、1年生の時にも言われたかもしれないけど、指揮の右手はピアノ、左手は歌への合図になってます。皆は左手をよく見てほしい。まだ音程とか不安かもしれないけど、間違ってもいいから、堂々と胸張って、俺の方見て歌ってください。」
「はい!」
宏樹が返事をしてくれて、そうすれば、周りも頷いたり返事してくれたりした。
構えて、昴流に視線をやる。
四拍子の空振りの後、伴奏が始まる。
堂々と歌って、と言ったからか最初のP(*)は大きすぎる。しかし音程は悪くない。
力が入りすぎてなめらかさなフレーズ感が消えているものの、皆ときちんと目が合った。
サビは盛り上がりすぎて言葉がはっきり聞こえなくなってしまっているのが残念だが、メリハリをつければとてもいいと思った。
最後まで合唱を終えると、時間はギリギリ。
「時間ないから、投票は放課後ホームルーム終わってからやる。部活あるやつもちょっとだけ時間ちょうだい。投票の間指揮の2人には外に出てもらうから、そのつもりで。指揮が決まったら、その人に曲に関しては仕切ってもらうから、みんなで頑張ろうな。」
昴流が最後にそう締めて、昼休みの練習は終わった。
*パートリーダー:各パートの練習をとりまとめる人。
*P:ピアノ。強弱記号。弱く、という意味。
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