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〜空夜side〜
昴流が出ていった教室は静まり返っていた。
「……みんな机元に戻そう。」
宏樹の声掛けで何人かの男子が教室を元通りにしてくれた。
「裕貴、大丈夫?」
「おう!!いや実は足をくじいただけで、ほかは全然大丈夫だ!!今はもう痛くない!」
「ならよかった。あとで保健室行っておく?」
「いや、様子みて平気そうだったらいいや!」
宏樹は裕貴の様子も確認してくれた。
「……みんな、座って。俺から話があります。」
その場に残った夏目が、みんなに声をかけた。
亜美香も、泣いていた女子たちも、皆席に戻った。
「まず、鳥谷さん。」
「……はい。」
「あなたのやったことは、本当によくないことだよ。どうしてだか、わかる?」
夏目は、責めるわけではなく、優しく問いかけた。
「……アレルギー、だから?」
「うん、アレルギーについて、正しく理解してもらいたいから、説明するね。アレルギーというのは、単に好き嫌いなどの嗜好とは異なる。簡単に言えば、体がその物質を受け付けないんだ。最も皆に身近なものは、花粉症だね。あれは、花粉によるアレルギー反応で、鼻水が出たり、咳が出たり、目が痒くなったりする。」
皆は黙って、真剣に話を聞いていた。
「アレルギーの中でも、とても怖いのは食物アレルギーだ。食物アレルギーを起こす食べ物にはたくさんの種類があるけれど、全て共通で、アナフィラキシーショックを起こす危険性がある。食物アレルギーの症状はたくさんあるんだ。皮膚が痒くなったり、喉が腫れたり……その様々な症状の中でも、重篤な症状が2つ以上、同時に起こった場合をアナフィラキシーショックというんだ。」
夏目はクラスの皆と1人ずつ、目を合わせながら話を続ける。
「アレルギーは、人によって軽度なものから重度なものまで様々だし、アナフィラキシーショックを起こすときの食べ物の量も人によって違う。だから、アレルギーの人には、ほんの少しでもアレルゲンの食べ物を与えてはいけない。もちろん、治療の一環で口にしたりすることはあるけれど、それは医者の判断に基づいて、本人が判断することだ。決して、周りの人たちが決めることではないんだよ。」
「先生、今さっき、ナッツの入ったチョコが教室に散らばったけど、それは霧谷は大丈夫なんですか。」
悠平が重たい空気の中、そう口を開いた。
「うん、俺が彼から聞いている症状の程度では、特に問題ないよ。彼は口に入れることでアレルギー症状を起こすから、その空間にナッツがある事自体は問題ではない。けれど、ナッツ自体には触らないようにしてもらっている。ナッツが散らばった床も、素手では触るのを避けた方がいいかもしれないね。」
夏目は優しく微笑んでそう答えた。
「みんなは高校生だ。まだ知らないこともとっても多い。でもね、命の危険は意外と身近にあるものなんだ。だから、本人が嫌だと言っていることや、無理だと言っていることを、強要してはいけない。これはとても大事なことだよ。わからないことは仕方がない。けれど、嫌だ、ダメだ、と言われていることをさせてはいけない。これだけは、守ろうね。」
クラスを見回して、皆が頷いているのを確認した夏目は、にっこりと笑った。
「うん、じゃあこの話はもうおしまい。もう皆が、これ以上鳥谷さんを責めたりしてはいけないよ。鳥谷さんとお話するのは先生たちの役目だからね。わかったね?」
「「はい。」」
「はい。じゃあ、鳥谷さんと、霧谷くん、状況も知りたいから、ちょっと話を聞かせてくれる?皆は昼休みに戻って。」
亜美香と京が夏目に連れられて出ていくと、クラスは少しずついつものようなガヤガヤとした雰囲気に戻っていった。
「くうちゃんすごかった……」
「えっ?」
「あの木之本を殴りにいけたのはさすがくーちゃんだった……」
「えっ、え?嘘、俺なんかまずかった?」
「いやいやっ!めっちゃ助かったけど、びっくりしたというか。」
「俺は部活で見慣れてるけどなぁ……かしけんは初見だもんなぁ。」
空夜からすれば、怒った時の母、恋より優しいものだと思うのだが。
「はーぁ……でも、なんでとやちゃんはきりちゃんにチョコなんて渡そうとしたんだろうね?」
「多分、京の噂を聞いたからじゃないかな。」
「うわぁっ?!後ろから話しかけないでほしちゃん?!」
「ごめんごめん。」
いつの間にか宏樹がこちらにやってきていて、ちょうど兼の後ろから声を出した。
「京はアーモンドチョコが嫌いって噂でも聞いたんじゃないかな。それで、最近昴流くんと仲がいい京に、嫌がらせのつもりで、嫌いなものを押し付けようとしたんだと思う。」
「あー、なるほどねぇ……とやちゃん、きのちゃんのこと大好きだもんねぇ。」
「それにしては、木之本の好み把握できてない感すごいけど。級長、京くんと仲良いの?」
「え?あぁ、去年も同じクラスだったからね。」
「そっかー。じゃあアレルギーのことも知ってた?」
「まあね。まさかこんな問題になるとは思わなかったけど……」
「うんうん……きのちゃん大丈夫かなぁ。」
兼が心配そうに廊下を見つめる。
午後の授業になっても、亜美香と昴流、京は戻ってこなかった。
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