アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
30
-
〜陸玖side〜
「おいコラてめえ何よそ見しとんじゃボケェ!」
「うわぁぁぁごめんっ!!!」
野球部でのピッチング練習中、陸玖は昴流の母、明希の姿を発見してよそ見していたところをキャッチャーの悠平に怒鳴られた。
「お前は今シーズン2年生エースなんだぞ!何気抜いてるんだこのドアホ!」
悠平はキャッチャーマスクを取りながら、ズカズカと音がなりそうな勢いでこちらに向かってくる。
「いやだって!昴流のお母さんいたからちょっと気になって……」
「あァ?」
まるでヤクザのすごみ方である。
「昴流って、木之本か?」
「えっ、あ、うん。ゆうくんと同じクラスの木之本昴流だよ。」
今日の昼休み、隣のクラスがバタバタしているのは気にかかっていた。
本当は覗きに行こうとしたのだが、新に止められて結局そのまま。何が起きたのかは知らなかった。
「ふーん……」
「昼休み、何かあった?」
「あー、まあ、ちょっとな。お前の片割れが木之本のこと止めたけどな。」
「止めた?もしかして、昴流が喧嘩した?」
「いや、あれは正当な怒りだったぜ。あいつがやんなきゃ俺がやってたかもしれねえし。」
「……なにがあったかさっぱりなんだけど。」
はてなマークを浮かべていると、悠平がため息をついて、昼間起きたことを教えてくれた。
「えぇぇ?!なにそれ、やばぁ……」
「まあ、ちょっとやり過ぎたってとこかな。」
「いやいや、女の子の顔殴ったのは完全にやり過ぎだよ!うわぁ……昴流怒られるぞ……」
「あのお母さんにか?」
「いや、お父さんの方……」
「お父さんっていうと、俳優の?」
「木之本翔也ね。ゆうくん少しは芸能人の名前覚えたら?」
「興味ねえ。野球選手なら誰でも言えるんだけどな。」
「極端……まあいいけど。」
「んで、その父親の方が怖ぇのか?」
「うーん、小学生の時、昴流が友達と大喧嘩したことがあって、その時も殴りすぎて明希さんが呼び出されたんだけど……その後で翔也さんと約束してるんだよなぁ、人のことは殴らないって。」
「でも今回のは明らかに鳥谷が悪いだろ。」
「明希さんは、それで庇ってくれると思うんだけど……」
(翔也さんとは関係が捻れたまんまだしなぁ……)
話は聞いてくれるだろうが、そもそも昴流が素直に話すかどうかもわからない。
そんな態度を取れば怒られるのは明白だ。
「はぁぁ……昴流は悪いやつじゃあないんだけどな。」
「あいつはいいやつだろ。」
「ゆうくんはそう言ってくれると思ったよ。」
「ま、緋村先生が庇ってくれんじゃねえの?あの先生は生徒の話ちゃんと聞いてくれるし。そりゃ、怒られはするだろうけどけどさ。」
「うーん、そうだね……」
「で?お前はそんな心配してる暇あったんかァ?!」
「ひいぃ?!すいませんすいませんっ!!!」
「おら、再開すんぞ。」
「はいぃっ!!」
元の位置に戻った悠平がキャッチャーミットを構える。
深呼吸して、1球。
「……なんじゃこの球ァ!!!気ぃ散っとるやないかい!!!!」
「ごっ、ごめんっ!!もう1球!!」
ズパンッ、と帰ってきた球には悠平のイライラが篭っている。
1度昴流のことは忘れ、精神を統一する。
悠平のミットだけを見て、そこに向かって投げればいい。
パァン!といい音が鳴った。
「やればできんじゃねえか!毎回この球投げてこい!どこのコースでも俺が絶対にとってやる!」
「うんっ!」
*
「はぁぁ……もう投げらんない……」
「コラ何ボケっとしてんだ。さっさとアイシング(*)。」
夕日が沈む頃、野球部の練習も終わり、グラウンド整備中。
球数はさほど投げていないのだが、気が散りまくって精神の方が疲れてしまった。
「んー……」
「ったく、ほら、これ巻いて。」
今日は整備当番ではなく、道具片付けの陸玖がモタモタしていると、悠平がアイシングの用意をしてくれる。
「ゆうくんありがと。」
「自分でやれよな、ほんと。」
「えへへ……」
「気持ち悪ぃ顔してねぇでさっさと片せ。帰るの遅くなるだろうが。」
「あ、そっか、今日ゆうくんがお迎えか。」
「おー。」
悠平にはまだ幼い双子の弟と妹がいて、両親が共働きのため保育園に預けられている。
その弟と妹を迎えに行く役目は両親と悠平で分担しているのだ。
「集合ー!」
キャプテンから声がかかり、陸玖と悠平も最後の道具をしまって、皆の元へ走る。
「明日は朝練はなし、昼にグラウンド整備当番のやつは来ること。それじゃ今日はこれで解散。お疲れ様でした!」
「「おつかれーーしたっ!!」」
挨拶が済むと各々の片付けや着替えをして、皆帰り支度を始める。
「じゃあ俺帰るわ。」
「あ、うん!お疲れ様!!」
「木之本、どうなったか分かったら教えてくれ。」
「え、あ、うん分かった!」
悠平も心配だったようだ。
なんだかんだ優しいな、と思いながら陸玖も片付けを済ませて帰路につく。
家も近くなってきたところ、何気なく顔を向けた公園のベンチに人影があった。
「……昴流?」
*アイシング:冷やすこと。ここではピッチングによって酷使した肘や肩をケアすること。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
34 / 189