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*過去時系列
「息子が申し訳ありません。」
「いえ……怪我もなかったことですし、うちの子どもが必要以上にからかったのも悪いですから。」
頭を下げた養母、明希の隣で、昴流は唇を噛み拳を握りしめた。
「本当に申し訳ありませんでした。」
友達親子が出ていくまで、明希は頭を下げていた。
「先生にもご迷惑をおかけして、本当にすみません。」
「いえいえ!子どもの喧嘩はよくあることですし、あちらのお母様も理解されていましたし……木之本、次からは殴ったらダメだからな?ちゃんと話し合いをするんだぞ。カッとなりそうだったら、先生を呼ぶんだ。な?」
「……ほら、昴流。」
「はい……」
「よし。わざわざお呼び立てしてすみませんでした。」
「いえ。俺からもよく言って聞かせますので。それでは失礼します。」
担任の教師とも挨拶を交わしたあと、帰路につく。
明希に手を引かれて歩く昴流はずっと黙り込んでいた。
養父である翔也は、人気絶頂の俳優。
外部には養子であることは隠されており、昴流は表向き、2人の実子だった。
しかしそれゆえに、周りからの妬みや僻みを受けることもあった。
いつもなら聞かなかったことにして無視するのだが、この日は話が翔也の悪口にまで飛び火した。
翔也にはゴシップが出たことがない。悪口など適当なものだったし、所詮小学生の言った戯言に過ぎない。しかし昴流には許せなかった。
自分に優しくしてくれる養父の悪口が、たとえ戯言でも許せなかったのだ。
「昴流、ちょっと寄っていこうか。」
にっこり笑った明希が指したのは、家からさほど離れていない公園だった。
夕暮れ時で人はおらず、2人だけでベンチに腰かけた。
「どうしてお友達のこと叩いたの?」
担任の教師も昴流が友達を殴る前のことは見ておらず、急に殴ってきた、という友達の意見しか伝えられなかった。
担任は昴流にもなぜそんなことをしたのか聞いてくれたのだが、昴流は答えなかった。
「お母さんにも言えない?」
昴流が明希を見ると優しく微笑んでいた。
「どうして喧嘩しちゃったの?」
「だって……父さんの悪口言うからっ……」
再び問われて、昴流はやっと口を開いた。
悔しくて悲しくて、涙が滲んだ。
きっと怒られるのだと思った。
「そっかぁ、それで昴流は悲しくなっちゃったんだね。」
しかし明希の反応は昴流の予想とは違う反応をした。
「怒らないの……?」
昴流が驚いて明希を見上げると、明希は相変わらず優しく微笑んでいる。
「うん。怒らないよ。でも、お友達を叩いたのはよくないね。」
優しく昴流の頭を撫でた明希は、普段昴流に怒ることはほとんどない。
昴流がいい子なのもあるが、明希は今の何がいけなかったのか、どうしてダメなのかを昴流と一緒に考え、話してくれた。その後で、これは悪かったね、と昴流が納得するように言い聞かせてくれた。
そんな明希が、『叩いたのは良くない』とキッパリ言ったことは、昴流にも響いた。
自分はしてはいけないことをしたんだ、と。
「いい?昴流。人に痛いことをしていいのは、命が危険な時だけだよ。」
「命が、きけんなとき。」
「そう、誰かに襲われそうになったときは、思い切り殴って逃げなさい。お友達が危ない目にあったとき、助けるために危ないことをした人を叩いちゃうのも仕方ないし、そういうときは暴力を使ってでも、逃げないとね。でも悪口を言われても、お友達を叩いたり蹴ったりしたら行けない。」
「なんで?」
「暴力は、相手を危険に晒すことになる。だから、自分の命や大切な人の命が危険なときしか使っちゃいけない。お母さんの言ってることわかる?」
「うん。」
「わかってくれたらいいんだ。今日の昴流も、大切な人のことをバカにされて、嫌だったんだよね。でも、本当に本当にピンチの時しか、暴力は使っちゃいけないよ。」
「うん……」
俯くと、明希は優しく昴流を抱きしめた。
「大丈夫、お母さんは昴流の味方だからね。悪いことは悪いって言うけど、絶対に味方だからね。」
「……うん。」
「よし!それじゃ、ケーキ買いに行こうか!」
「えっ?」
「ケーキ!今日は夕飯食べたあとに、ケーキ食べよう。お父さん遅いから内緒だよ?」
そう言って口元に指を当てた明希のことを、昴流はよく覚えている。
*
(……あん時、もう母さんには頭下げさせないって、思ったのに。)
だから、授業をサボったり、髪を染めたり、派手な格好をしても、人との揉め事は起こさないできた。
成績だって問題ないように残してきた。
両親にだけは迷惑をかけたくなくて。
「……はぁ。」
あの日と同じベンチに、今日は1人。
「……昴流?」
後ろから声をかけられ、驚いて振り返る。
「……陸玖。」
「今帰り?」
「あー、まあ……」
「嘘ついた。いつからここいんの?」
「……30分くらい前。」
幼馴染の双子にはすぐに心の内を読まれてしまうことが多い。
「今日、昼に喧嘩したんだって?」
「空夜から聞いたの?」
「え?ううん。ゆうくんから。」
(……ゆうくん……?誰だそれ。)
「あと、明希さん見たから……」
「あぁ……」
「なんか、あった?」
(まあ、陸玖になら、いいか……)
昴流はひとつため息をついて、口を開いた。
「……そこ、座れよ。」
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