アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
34
-
〜京side〜
「京っ!」
「お父さん?」
「大丈夫か?どこもなんともないか?!」
帰宅するなりバタバタとリビングに駆け込んできた父、永和(ひさと)が京を抱きしめる。
「うん、何も。大丈夫だよ。」
「昼は行けなくてごめんな……どうしても抜けられなくて……」
「ううん、大丈夫。」
永和は企業勤めだがかなり忙しく、海外出張に行っていたりすることもある。
時間の融通もききにくく、突然の呼び出しには向かえないことのほうが多かった。
「先生が何かあったら連絡してくださいって言ってたよ。」
「いや……京が大丈夫ならいいんだ。先生はいい人なんだろう?」
「うん、ちゃんと生徒の話を聞いてくれて、味方してくれる先生だよ。」
「そうか、それなら安心だよ。」
「お父さん、ご飯食べるでしょ?」
「うん。佳織は?」
佳織(かおり)は京の姉で、病院事務の仕事をしている。
「少し遅くなりそうだって連絡が来てたよ。」
「そうか……じゃあ、先にご飯にするか。」
「うん。」
京の家庭には、母がいない。
京の記憶にも、母はいない。
姉や父の話から、男性でとても優しい人だったというのはわかっている。
しかし体が弱く、京が1歳になる前に肺炎を拗らせて亡くなったのだという。
「学校は、どうだ?今日も酷い目にあったんだろう……いじめられてないか?」
「そういうのじゃないよ!友達はみんな優しいし、今日も1人の子が庇ってくれたから、大事にならなかったんだよ。」
「そうだったのか。この前、遊んでいた友達か?」
「うん、そう。そのうちの1人だよ。」
母がいなかったこともあり、京が幼い頃は友人と遊ぶ機会がなかった。
皆の母親が幼稚園に迎えにくる中、京は1人だけ遅くまで父の帰りを待っていた。
小学生のときは夕飯を近くに住む祖母の家で食べていたこともあり、友人たちとは時間がなかなか合わず、学校では遊んでいたものの、放課後に友人の家に行ったり一緒にゲームをしたりということはできなかった。
「そうか。いつも京には我慢させてばかりだったからな……もう高校生なんだ、少しくらい遅くなったって、連絡してくれれば構わないから、自由に遊びなさい。」
父はこんな風に、いつだって京のためを思ってくれていた。
「うん、ありがとう。あの、それで、相談なんだけど……」
京はまだ、あの4人でお泊まりすることについて、父に話せていなかった。
「うん?どうした。ダンスで何か必要か?お金を置いておこうか?それとも父さんが買ってこようか?」
「ううん!そうじゃないんだ。あのね、友達の家に、お泊まりしてきても、いいかな……」
「お泊まり?そのお家の人は、いいって言ってるのかい?」
「うん、ぜひ来てねって、言ってくれて……」
「そうか、じゃあいっておいで。いつ行くんだ?その日までにお菓子を買っておくから、日にちが決まったら教えてくれ!」
あっさり許可が出て、それも嬉しそうにどんなお菓子にしようか、なんて考えている。
「アレルギーがある子はいないのか?好きなものがある子がいたらそれも教えて欲しいなぁ。」
「ふふ、お父さん、少し落ち着いて。」
「おぉ、ごめんな。京がお友達とお泊まりなんて、父さんも嬉しくてな。」
「好み聞いておくよ。」
「うん、そうしてくれ!いつも何もしてあげられなくてごめんな。」
「どうして?お父さんは色々してくれてるよ。」
「アルバイトだって、無理してすることないんだぞ?父さんこれでも稼いでる方だからな!お小遣いが欲しければ言って欲しいし……お金くらいしか、してあげられることないからな……」
「自分で遊ぶお金は自分で稼ぐよ。無理に入れてるわけじゃないし、ダンスの方はお父さんにたくさん甘えるから、ね?」
「……そうか。うん。いつでも言ってくれよ。家はなかなか、もてなすことができないから、友達を呼ぶとかは難しいかもしれないが……呼んでもいいんだからな?広いスペースがいいとか、そういうのがあったら遠慮なくうちを使いなさい。」
「うん、ありがとう。」
今日、亜美香の母が昴流の母に向かって言った言葉のことで、京は家族のことについて、考えていた。
けれど、家族の形なんてなんでもよくて、自分にとって愛のある家族ならそれでいいんだとそう思った。
優しく、佳織や京を思いやってくれる父は、胸を張って自慢できる。
昼間の不安は、父の優しさのおかげでどこかに飛んで行った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
38 / 189