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〜空夜side〜
順番に夕食と入浴を終えた空夜たちは恋が掃除しておいてくれた空き部屋に集まった。
「課題曲の青春譜なんだけど、テンポ感とか歌いこみ方で差をつけてく方がいいかな。」
「赤津くんは最初のテンポはどのくらいがいいと思う?」
「うーん、テンポが早くなるところと差をつけたいから、最初は1番遅い108(*)、これ以上遅くならないように気をつけながら、重ために歌う。で、Più mosso(*)で、のびやかにだから、重たい重りを下ろしたときの開放感みたいなものを歌声に乗せるイメージかな。」
「なるほど……昴流くんの伴奏もそんな感じに?」
いつの間に名前で呼ぶようになったんだろう、などと思ったものの、目の前にある楽譜にすぐに意識が戻った。
「まあ、テンポ感はそうだね。雰囲気も重ためから軽めに持っていくイメージかな。」
「OK、その方向で練習する。」
「うん、お願い。あとは歌いこみ方だけど……」
「この歌詞ってさ、暗いとこも明るいとこもある感じだよな!高校生っぽい!」
「……確かに。かしけんの言う通りどっちの要素もあるね。」
「かしけん鋭いじゃん。」
「わーい!くうちゃんときのちゃんに褒められた!」
「樫本くんの言う高校生っぽい、ってのは大事かも。苦しいことも楽しいこともあるのが学生だよね。」
「そうだな。高校生がかかえる複雑な感情、みたいなものを歌に乗せてくイメージかな……」
「そうだね……家族や友達との人間関係とか、進路の悩みとか、でもそういうの全部関係なく馬鹿やって楽しめるところとか……高校生らしさ、みたいなものが歌詞に乗せられたらいい歌い方ができるかも。」
「あとはずっと三拍子だから、リズムだよな。」
「さんびょうし?」
首を傾げる兼に、昴流が拍子の説明をする。
「なるほど!!指揮のとんとんってやつの数だな!」
「うん、まあそう思ってくれてもいいわ。厳密には違ぇけど。」
「この曲は二拍子で振ってもいいよね。三拍子だと忙しないというか。」
「三拍子なのに二拍子で振れるのか?!」
「うん、リズムをずらさなければね。まあ難しいこと話すとわかりにくくなるから省くけど。」
「へえ!!すげえな!きりちゃんはわかる?」
「うん、なんとなくね。」
「みんなすげぇー!」
キラキラと目を輝かせる兼に、3人で苦笑する。
こんなにすごいすごいと言われるとは思わなかった。
「まあ、みんなの歌の様子みて、三拍子か二拍子か決めよう。俺はどっちでもいいし。」
「うん、わかった。」
「課題曲はまあ、今度歌ってみるとして……問題はこっちだな。」
昴流が楽譜をめくり、青鷺の方を出す。
「なかなか音取りがきつい。青春譜も結構ズレて歌うやつだから、先に手付け始めた青鷺の音程は安定させたいところなんだけどな。」
「テノールは取れてるから、かしけんや京くんはあまり気にしなくていいと思う。問題はアルトとバスだね。」
「そうだな……やっぱ難しいからな。」
「なんかさぁ、鳥谷ちゃんがこの前言ってたんだけど。」
あの一件以来、亜美香は相変わらず昴流に絡んでくるものの、空夜たちも巻き込んで合唱コンクールの話をすることも多くなった。
兼や京はパートリーダーの亜美香から練習について相談されることもあるようだ。
「アルトの鈴本さん?がめちゃくちゃ音ズレてんだって。猪田さんは優しいから全然言ってないみたいだけど、あれは酷いよって言ってた。」
「そんなにズレてた?俺1番最近振った時はそんなに気にならなかったけど……」
「俺も気になんなかったな。」
「いや、この前は鈴本さんいなかったよ?」
京から指摘を受け、空夜と昴流は顔を見合せた。
クラスメイトの顔も覚えていないとは。
「……じゃあ、次回ちょっと意識してアルト聞いてみるわ。バスの音取りはいけてるし。あいつら声量とタイミングだから。」
「うん、お願い。バスは俺が指揮で合図出してみるよ。」
「2人とも誤魔化したけど、きりちゃんいなかったらやべえな!」
「「うぐ……」」
「ふふっ、そういうときのために、4人で話し合ってるんだし、いいと思う。」
「京くん優しい……」
「ほんと、かしけんとは大違いだ。」
「ええ?!酷い!!」
パンっ、と兼から背中を叩かれた昴流が痛ぇ、と笑った。
「あとは……まあ細かいとこは俺と空夜が詰めてからだな。」
「そうだね……まだ俺たちだけで練習できてないしね。」
「それな。霧谷とかしけんから、なんかある?」
「楽譜記号についてちょっと聞いておきたいかも。」
「あ、俺も俺も!よくわかんねえ記号多すぎて無理!」
「じゃあ、それについて話そっか。」
「そうだな。歌いこみにも関係あるし。」
その後、楽譜を見ながらの話し合いは思ったより長くなり、途中で恋がジュースを持ってきてくれた。
22時頃、琉が遅めに帰宅した頃にやっと4人は楽譜を閉じ、兼の発案から「高校生っぽいお泊まり会」をすることになった。
*108:メトロノームの速さのこと。メトロノームの数字は1分間に何拍入るかが基準なので、108は1分間に108拍入る速さ、ということになる。
*Più mosso:ピゥモッソ。前より速くという意味の音楽記号。
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