アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
56
-
〜俊哉side〜
(……ん、空夜?)
部活が終わり、片付けをしている時、ふと見上げた校舎の渡り廊下に空夜の姿が見えた。
4階の渡り廊下は音楽室からすぐのところで、音楽室などがある特別棟と、普段使われる教室や職員室などがある普通棟を繋いでいる。
誰かと話しているようだが、空夜の奥側にいるその人まではさすがに見えない。
「としー?何してんの?」
「いや、別に。」
「あれ?くーちゃんだ。さては見惚れてたなぁ?」
「違うし。」
「なんだよ、照れんなって。」
うりうり、と脇腹をつつかれるが、俊哉はそれより空夜が話している相手が気になる。
昨日告白していたあの男は吹奏楽部だ。
今日もきっと部活に来ている。
もしも付き合うなんてことになっていたら、太刀打ちのしようがない。
俊哉は人のものを盗る趣味はないし、空夜が決めたことなら口出しする気もない。
しかし自分が何もしないままそんな結果になるなんて、少し悔しかった。
*
「……あ。」
「あ、くーちゃん!……と、えっと、確か……野田くん?」
帰り道、空夜と例の男が一緒に歩いてきたところに遭遇した。
宏樹が野田と呼んだので思い出した彼の名は、野田航だ。
「えーっと……ごめん、誰かな……」
「あ、うちのクラスの級長の星谷宏樹くんと、環境委員の村田俊哉くん。」
「初めまして、かな?野田航です、よろしく。」
にっこり笑った彼はいい人そうに見えた。
「2人とも部活終わり?」
「うん。くーちゃんたちも?」
「うん、今日はもう終わった。」
「2人ともいつも一緒に帰ってるの?家近いとか?」
それは宏樹の何気ない質問だった。
俊哉と宏樹が一緒に帰るように、空夜たちもそうだと思ったのだろう。
「えっ?いや、家はそこまで近くないよ。まあ、方向は一緒かな。」
「そうなんだー、じゃあ仲良いんだね!」
「ま、まあねっ。」
空夜はぎこちなく答えて、視線を逸らした。
航もどこか照れくさそうで、なんだか初々しいカップルみたいだ。
「2人ともまた月曜日ね。」
「うん、またね!」
「またな。」
特に話すことも無く、2人を見送る。
「ちょっととし?!どういうこと?なにあれ、ねぇ、くーちゃんは彼氏いないんじゃなかったの!」
「……はぁ、俺が聞きてぇよ。」
空夜の姿が見えなくなった途端、思い切り肩を叩いてきた宏樹に、俊哉はため息をついた。
*
〜空夜side〜
「航、話があるんだけど、ちょっといい?」
なんでもないことのように、部活終わりに声をかける。
こうすれば、周りの皆はまた曲の話だと思ってくれるだろう。
音楽室からなかなか人がいなくならず、空夜は航と2人で渡り廊下に出た。
「……くーちゃん、どうしたの?」
なかなか切り出せずにいた空夜に、航が笑って声をかけてくれる。
(よし。)
ひとつ深呼吸して、航の方をきちんと向いた。
「昨日のことなんだけど。」
「……!うん。」
航は少し驚いたような顔をして、すぐに真剣な表情になった。
「正直に言うと、航のことをそういう目で見たことがなかった。だから、航のことは恋愛的に好きなわけじゃない。」
「……うん。」
「でも、でもね。」
続きがあることにびっくりしたのか、航は不思議そうに首を傾げた。
「俺は、航から告白された時、迷った。」
「う、うん?」
「俺、告白されたら、とりあえず付き合うか、断るかの2択しかないんだ。でも、航はすごく真剣に気持ちを伝えてくれて、だから、俺は迷った。付き合うのも、断るのも、きちんと理由がいると思って。」
「えっ、と……好きじゃないんだったら、断ってもいいんだよ?」
「うーんと、上手く言えないんだけど……そもそも恋愛感情が全くない時は、迷いもしないんだけど……航はわかんなかった。」
「好きか、わかんないってこと?」
「そう、かな?今のところは恋愛感情がない。でもそれは考えたことがないからで、考えてみたらどうか、わかんなかった。」
「なるほど……?」
「だから、俺、考えたんだけど……その、これからは、恋愛対象に入れて、航と、お友達として付き合いたい。その、つまり……返事は保留に、したい。」
「保留……?」
やっぱりこんな曖昧な答えは嫌だろうか、そう思っていたときだった。
「保留に、してくれるの?それなら俺、いっぱいアプローチしちゃうよ?くーちゃんが少しでも好きになってくれるように。」
「えっ?あ、うん……?それで好きになるかは、わかんないけど……そういうやり取りを通して、考えてみたいっていうのが俺の答えだから、いいんじゃないかな……?」
「それって、どこまでOK?キス……はよくないよね。手繋ぐのは?ハグは?デートは?」
「えっ、あぅ、ちょ、そこまでは……」
「ご、ごめんっ、がっつき過ぎた……?えっと、じゃあそれはゆっくり考えよう……」
「そ、そうだね。」
「……今日、一緒に帰るのは?」
子犬みたいな甘えた瞳で見られて、可愛いと思ってしまう。
「うん、いいよ。」
「やった、じゃあ荷物取りに行こ。」
にぱっ、と笑う航は本当に嬉しそうだ。
こうして空夜と航の半ばお試し交際のような関係がスタートした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
62 / 189