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〜陸玖side〜
6月18日
(……視線を感じる。)
昼休み、ここ最近毎日感じている視線は野田航からのものだ。
チラチラと見られているものの、話しかけては来ない。
何か話したいことがあるのか、気に入らないことがあるのかよくわからない。
「陸玖、俺今日は生徒会室行くから。」
「お、おぉ!わかった!」
いつもは一緒にご飯を食べている新が教室を出ていく。
すると航がこちらに向かってきた。
(ひぃぃ?!なんだ?!)
「あの、赤津くん。」
「は、はひ……」
「ちょっと時間いいかな。」
「えっ、ぁ、はぃ……」
特に雰囲気が怖いわけでもないのに、なぜか敬語になってしまう。
「あの……話したいことっていうか、聞きたいことがあって……」
陸玖の近くの席に腰掛けると、航は急に小さな声になった。
「な、なに?」
「くーちゃんのことなんだけど。」
くーちゃんといえば、自分の片割れ、空夜のことだ。
空夜のことでなにか聞きたいなら本人に聞くのが1番だろう。
それも航は部活空夜と同じだったはずだ。
「くーちゃんって、何が好きなの?」
「……へ?」
あまりにも抽象的というか、ふんわりした質問に陸玖は首を傾げてぽかんとした。
「いや、あの、食べ物とか、遊びとか?趣味とか。」
「本人に聞けば……?」
素直に疑問を口にすると航は項垂れた。
「それができたらここまで拗らせてないんだよ……」
どちらかと言えばチャラチャラした印象の航だが、今は真剣に考えこんでいて、本気で悩んでいるらしい。
「なんでそんなこと知りたいんだ?空夜のこと好きなのか?」
「は?!いや、ちがっ……くない、けど……」
(なんだ、いつものやつか。)
空夜のことを好きになった男女は、よく陸玖に空夜のことを尋ねてくる。
本人には聞きにくいから、らしい。
「俺に聞いても意味無くね?自分で聞いて、ちゃんと空夜のこと知らないと。」
陸玖はそういうやつらが嫌いだった。
空夜を対等な立場で見ていない気がして、嫌だった。
空夜と向き合う気がないように思えて、ムカついた。
「それじゃダメだから君に頼んでるんでしょ……俺だってできたらくーちゃんと話したいよ。君とくーちゃんが似てるのは顔だけなんだから。」
なんだかとても失礼なことを言われている気がする。
しかし少し気になる発言だ。
似ているのは顔だけだ、だなんてなかなか言わない。
顔が似ていれば、2人でひとつ、のように扱われることは多く、空夜でも陸玖でも大差ないだろうと思っている人は一定数いる。
「本人に聞いたらなんのサプライズにもならないじゃないか。」
「……は?サプ……は??」
一体なんのサプライズをする必要があるのだろうか。
誕生日はまだ4ヶ月も先だし、告白するなら別に好きなものを聞く必要はない。
「明後日!くーちゃんとデートするの!」
潜めた声で、力強くそう言う航は少し照れている。
「珍しく部活が午前だけだから、デートに行くの!本人に行きたいとことか聞いたら、当日のお楽しみ感がないじゃん!」
「……あー……え?それで、俺?」
「そうだよ!兄弟の君が1番詳しいと思って。外さないかなって。」
たかだかデートでサプライズ。
空夜に惚れすぎではないか。
「1つか2つでいいんだ。あとはくーちゃんに聞いたり、話したりして覚えるから。でも少しくらい事前情報がないと、嫌いなものとか選んだら最悪じゃん。」
「そもそもサプライズにする必要あるのか……?」
「少しでも驚いたり、興味持ったりしてもらいたいんだよ。君片思いしたことないの?」
なんだかまた失礼なことを言われている気がする。
しかし、どうやら陸玖が思っていたのとは少し違うようだ。
「何が知りたいの?好きな食べ物?好きな食べ物なら鯛。」
「鯛……?!寿司か……?寿司なのか……?」
ブツブツと呟き始める航は、陸玖のイメージと少し違う。
「あとはスイーツとか?チョコ系のお菓子ストックしてるし。」
「なるほど、それ採用。」
わけがわからない。
採用だろうが不採用だろうが陸玖の知ったことではない。
「人混みは苦手。人酔いするから。」
「それは聞いたことあるような……そしたら繁華街はパスかな……」
「まあ多少は平気じゃん。遊園地とかも好きだし。」
陸玖の方がアウトドア派だが、空夜も出かけるのは嫌いなわけではない。
恋と2人で水族館や映画に行ったりするときもあるくらいだ。
「映画は事前リサーチが足りないし……いきなりお金かけすぎるのも負担だよな……かといってファミレスは味気ないし……」
「……俺もういい?」
「うん、ありがとう。」
まだ考え込んでいる航を放置し、陸玖は弁当を食べる。
スマホで何か調べながら、真剣に考えている航を見ると、悪くはないかな、と思った。
陸玖は空夜のことを大切に思っているし、幸せになって欲しいと思っている。
『赤津』に左右されない人と、空夜が望む関係を築いて欲しい。
空夜も陸玖に対して同じように思っているようだが。
空夜は雰囲気も性格も母似で、そのせいか男女関わらず影でモテまくっている。
中学の時も、高校に入ってからだってそうだ。
告白してくる人も一定数いるが、高嶺の花として遠くから眺めるだけの人もいる。
しかしその中には空夜の本質を見ないで、理想を押し付ける人がいる。
結局芸能人の息子として見られ、理想を求められる。
昴流がうんざりしてしまう気持ちも、陸玖にはよくわかった。
しかし航は、1年生から同じ部活だったからなのか、空夜の本質に近づこうと、本心を知ろうとしているように見える。
本気で空夜のことを考えようとしている気がする。
これは陸玖の勘だが。
それになにより、空夜がデートをOKしている。
付き合っていないのにだ。
少なからず好意があるのかもしれない。
空夜が誰かを好きになるなんて、陸玖は初めて見た。
双子の片割れだ。不幸にしたら許さない。
陸玖は航を見定めるように、じっと観察していた。
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