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〜空夜side〜
「はぁ、きりちゃんすごかったなぁ……」
決勝戦まで進んだ小野・霧谷ペアの最終成績は準優勝。
惜しくも1位には届かなかったものの、点数差はほとんどなかった。
素晴らしい演技に見ていた空夜たちはまだ余韻から抜け出せていない。
途中から宏樹と俊哉も合流したが、皆京のダンスに見惚れてしまった。
「あいつら付き合ってたわけじゃないよな?」
「付き合ってねぇよ。智陽って他校に彼氏いるし。」
俊哉の疑問にそう答えたのは昴流だ。
「え?!王子様彼氏いるの?!」
兼が思わずといった様子で大声を上げ、昴流から路上なんだから静かに、と注意される。
「まあうちの学校じゃ言ってねぇからな。他校の彼氏があんまり広めて欲しくないって言ってるらしい。お前らは言わないと思ってるから言ったけど、他の奴には言うなよ。」
兼がブンブンと首を振って頷く。
「小野くんって恋人いたんだ。そんな感じ全然しないよね。」
「隠してるからな。ふんわりした態度をとりすぎてモテまくってんだよ、あいつ。」
「みんなに優しいもんね。」
宏樹がそう言って苦笑する。
空夜はふわっとしたイメージしかないが、皆から優しいと言われている感じが強い。
「元々の性格もあるだろうけどな。」
「そうなんだ。昴流くんって小野くんと仲良いんだね。」
「まあ、生徒会で何かと関わること多いから。」
「全然関係ないけどさぁ……テストがもうすぐ始まるじゃん……」
憂鬱そうな声で兼がそう切り出す。
テストは7月5日から4日間で、1日に3教科から4教科だ。
「それがどうかした?」
「ほしちゃん、勉強得意か……?」
「俺っ?俺は、うーん……中の中くらい?」
「むらちゃんは?!」
「……中の下。」
「じゃあくうちゃんっ!きのちゃん!!」
「俺は学年の3分の1くらいに入るか入らないかくらいだけど……昴流はいつも学年1位だよ。」
空夜がそう言うと、兼はキラキラした目を昴流に向けた。
「……何言われるかなんとなくわかるんだが?」
「勉強教えてくれぇぇぇ!!」
*
〜京side〜
「お疲れ。」
「智陽、お疲れ様。」
「今日すごくよかったね!」
「そうかな……やっぱり足りてない気がする……」
「……この前コーチに言われたこと気にしてる?」
大会が終了して着替えをし、控え室のところで智陽と少し話をする。
「気にしてるっていうか、図星だったし……」
京は社交ダンスについて、少し悩んでいた。
京は社交ダンス以外も踊ることができる。
大会にメインで出ているのは社交ダンスだが、他のジャンルについてもそれなりの実力を持っていた。
社交ダンスを始めたのは高校からだったが、上達は早く大会にも出場し、入賞や準優勝を勝ち取ってきている。
しかし優勝したことは1度もない。
この大会直前の練習後、京はコーチと話をした。
コーチは怒ったり責めたりしてきたわけではない。ただ、京には恋愛経験がないのではないか、と聞いてきた。
『君の演技は素晴らしい。表現力もある。けれど燃えるような恋、胸が張り裂けそうな恋、大きく揺れ動き浮き沈むような恋心が感じられない。』
コーチはそう言った。
一般に、競技として扱われる社交ダンス、いわゆる競技ダンスでは特定のパートナーと踊る。
そのパートナーと恋愛を表現していくものであることから、パートナーと擬似的に恋愛をするペアも少なくない。
そういった面から、恋愛経験が豊富で様々な感情を知っている人はそれを表現しやすくなる。
恋愛経験があることは絶対ではないが、スパイスのようなものだった。
ダンスに深みを出す。時に感じられるピリッとしたリアリティ。
智陽にはそれがあって、京にはそれがない。
競技会場に出れば、気持ちを切り替えることはできる。
けれど『本物』を知らないから、『本物』以上は作れない。
「恋愛は無理してするものじゃないから……京が心が動いた時に、その気持ちをダンスにぶつけてみたらいいんじゃないかな?」
「うん……」
優勝したい。勝ちたい。
けれど恋愛は分からない。
(恋をするって、どんな感じなんだろう。)
まだ経験したことの無い感情は、想像するだけで実感することはできなかった。
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