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〜緋村side〜
(ん?)
2年生の教室のフロアの見回りを任されていた優樹は、B組の様子を見て立ち止まった。
「だから1回落ち着け!かしけんは焦りすぎだ。」
「陸玖くんはニコニコしてるけどわかってないよね、こっち見て。」
昴流が黒板の前に立って皆に数学を教えている。
それに加えて別のクラスの小野智陽もいて、勉強を教えているようだ。
(そういえば、木之本、授業サボらなくなったな。)
1年生の頃は時折授業をサボり、屋上で寝ていたことがあった。
それでもテストの成績はよく、出席日数も落としていないため単位が落ちることはなく、評価もそれなりを維持していた。
緋村の授業は毎回出席していたため、不思議に思ってパートナーにその話をしたところ、教師と合わないのではないかと言われたこともある。
それが今年度に入ってからは、入学式以外のサボりはまだ見ていないし聞いていない。
教師陣は変わったところもあるが担任団は持ち上がりだし、環境がそれほど変化したとは思っていなかったのだが、クラスメイトの影響は大きかったようだ。
「わかったぁぁぁぁ!!!」
「はいはい、かしけん落ち着け。」
「きのちゃんすげぇぇぇ!」
呆れつつも楽しそうな様子の昴流を見て、緋村は安心した。
昨年はどことなくクラスで浮きがちで、鳥谷亜美香が話しかけなければクラスメイトとの会話もほとんど無いような状態だった。
皆も成績がよくフィギュアスケートでも有名で、木之本翔也の息子で元UH会長の孫、という仰々しい肩書きのついた昴流を遠巻きに見ているばかりだった。
それが心配で今年も自分のクラスに引き入れ、彼と幼馴染の赤津空夜も同じクラスにし、隣のクラスには同じく幼馴染の赤津陸玖と笹倉新を入れてもらったのだが。
(そこまで心配する必要はなかったな。)
もちろん空夜が同じクラスであることはとても大きく影響しているだろうが、B組の皆とはいい関係を築けている。
(これは夏目先生にも報告だな。)
昨年屋上と同様にサボりの場所になっていた保健室。
養護教諭である夏目は度々保健室にやってくる昴流のことを心配していた。
それに加えて亜美香との騒動もあったため、夏目は昴流のことを気にかけてくれている。
「これは残りの2年はいい時間を過ごせそうだな。」
緋村はぽつりとそう呟き、見回りを再開した。
*
〜空夜side〜
「はー、おわったぁぁぁぁ……」
ベタァっと机に突っ伏した兼を宏樹がポンポンと撫でる。
「お疲れ様!」
「ほしちゃんんんんん!!!」
「よぉしよし!」
ぎゅっぎゅっと抱き合う2人を見て、空夜と京はクスクス笑った。
黒板を消したり、机を戻したりして教室を綺麗にしてから皆で出る。
なんだかんだと話をしながら歩いて校門に向かっていたのだが、その校門に誰かが立っていた。
誰かが立っていること自体はそこまで珍しいことではないが、茅野学園の制服ではなく、白いブレザーとズボンに濃紺のネクタイ、サラサラなびくシルバーブロンドの髪のその人はとても目立っていた。
(しかもあの制服って……)
「えっ、なんでいるんだ?!」
珍しく慌てた様子を見せた智陽が走って一足先に校門に着く。
それをきっかけに見ていた何人かの生徒たちは立ち止まり、2人を中心に円のようになっている。
(あれは、彼氏かな。)
昴流からこの前聞いたばかりの話を思い出し、空夜はそう思う。
少しずつ近づいて、見えてきたその彼の顔はとても整っていた。
髪の色はもちろん、同じ色のまつ毛に薄い透き通った青色の瞳。
日焼けしていない白い肌に艶がある桃色の唇。
日本人ではあまり見ない髪の色と瞳から、外国の血が混ざっているのだろうと思われた。
「急にごめん、父様がはるを連れて来いっていうから……急だったし、連絡したけど既読もつかなかったから迎えに来ちゃった。」
「えっ、あ、本当だ。気がつかなくてごめんね。」
「テスト前だし、勉強してるから今度って言ったのに、父様はすぐに会いたいって聞かなくて……本当にごめんね。」
他の生徒たちよりも近づいたから聞こえた会話の内容。
あまりいい状況ではないのだろうかと心配になった。
「あ、みんなごめん。えっと、僕の彼氏の杉野(すぎの)・マリア・黎(れい)。マリアは彼のお母さんの名前からとっているんだけど、呼ぶ時は杉野か黎の方を使ってほしい。ハーフだけど、生まれも育ちも日本だよ。日本語は完璧に話せるけど、少し人見知り気味だから、僕から紹介させてもらったよ。」
「きちんと紹介できなくて、ごめん……」
透明感のある美しい声。
たった一言だったのにとても耳に残った。
「ええと、それでこっちは僕の学校の友達だよ。今日一緒に勉強してたんだ。」
「うん。」
「……で、お前は行かなきゃいけないんじゃねぇの。」
昴流がそう言うと智陽は頷く。
「うん、黎の実家に行く。」
「……なんか大丈夫なの?それ。」
宏樹が心配そうにそう聞くと、智陽と黎がきょとんとする。
「あれっ?なんか俺間違えた?」
「いや……さっき話聞こえた感じだと修羅場っぽかったけどな。智陽がなんかやらかしたのかと。」
「ええっ?!違うよ!酷いなぁ昴流は。てか言わなかったっけ?僕、黎とは幼馴染なんだよ?」
「そんな話聞いてねぇっての。」
「そうだっけ?じゃあ今言ったけど、僕達幼馴染なんだ。それも家族ぐるみの。」
「あ、もしかして、俺の父様が、はるを嫌ってるとか、怒ってるって、思われたかな……そうじゃないんだ。俺の父様は、はるが大好きだから……」
「ああ……普通に会いたがってるだけなのか。」
「……うん、そうだよ。はると付き合ってることも、知ってる。」
「なんだ、びっくりしたぁ……ほんとに修羅場かと思っちゃった……」
安心してほっと息をつく宏樹と昴流に、黎が紛らわしいことしてごめんね、と謝った。
「まあでもそういうことだから、僕今日は先に帰るね!」
「おー、またな。」
「またねー!」
昴流と陸玖が手をあげて、それに智陽が応える。
黎は軽く会釈して、2人は歩いていった。
「……あれ、奏叔父さんのとこの学校だよね。」
「やっぱり?俺もすぐ思った。」
「だよな。」
空夜がずっと気になっていたこと。
黎の着ていた制服の学校は、奏が数学教師で勤めている私立高校、光の宮学園だ。
陸玖と昴流も気がついていたらしい。
(綺麗な人だったなぁ。)
空夜はぼんやりそんなことを思い、小さくなった2人の背中を眺めていた。
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