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〜昴流side〜
7月25日
「いらっしゃい……あ、迷わなかったか?」
「うん、すぐわかったよ。」
「いらっしゃいませ……って、あれ?知り合い?」
「まあ。学校の友達です。」
「えー!!すばくんが?!学校の友達をここに誘った?!まじ?!」
他に客がいないとはいえ、大声を上げる鷺原に静かにとジェスチャーする。
「えー、えー?すばくんちゃんと友達いたんだぁ。」
「めちゃくちゃ失礼ですよ。」
「えー、だってねぇ。幼馴染の子たちしか見たことなかったから。」
鷺原はそう言って、来てくれた京をじーっと眺めている。
「は、初めまして。昴流くんと同じクラスの霧谷といいます。」
「うわぁ、しかもとっても礼儀正しい。風貌ヤンキーのすばくんの友達とは思えないな。」
「鷺原さん、まじで失礼です。」
「ははっ、ごめんってー。ところで、なんでここに来たの?靴選びに来た感じ?お家近いのかな。」
「いえ、家は少し離れてるんですが……靴を選びたくて、でも俺は靴のこと全然分からないので、昴流くんに相談したんです。」
靴屋でアルバイトしていることは学校でもよく話していたため、京も当然知っていた。
テストが終わってすぐ、昴流くんは靴屋でアルバイトしてるんだよね、とLINEが入ったことが事の発端だった。
その内容は、今月末、誕生日の父親に靴を買いたい。しかし自分には靴の知識などはないから、もしよければ教えて欲しいというもので、それなら店に来て直接話しながら考えた方がいいのではないかという結論に至った。
あれこれ教えるのもいいが、1番近くで父親を見ているのは京だし、好みもよく知っているだろう。
現物を見て、どれがいいか考えつつ靴屋の店員としておすすめを教えたり、流行を教えたりする方がいいと思ったのだ。
そして今日。ギリギリになってしまったが京の父親の誕生日当日、購入のために京が店に来てくれたのだった。
「ほほーん、なるほどね!ならすばくんが接客ついてあげるつもりで、お客様の少ない時間を指定したわけね。」
「はい。」
「そうかそうかー!なんか本当に仲良さそうでちょっと安心したよ。すばくんって誤解されやすいけどめちゃめちゃいい子だしさぁ。」
「なんか恥ずいんでやめてください。もう仕事戻って。」
「あはは、ごめーん。」
全く悪びれないで、鷺原は靴の整理に戻った。
「……なんかごめん。うるさくて。」
「ううん!こちらこそお邪魔してごめんね。」
「いや、俺が呼んだし。で、革靴だっけ?」
「うん。もうかなり履き古した靴を使ってて、新しいの買いなよって言ってるんだけど、それ買うなら俺や姉さんのものを買うってきかなくて。だったらプレゼントにしようかなと。」
「なるほどな。どういうのがいいとかある?」
「うーん。今は明るめの茶色の靴なんだけど、せっかくだから新しい色にしようかなとは思ってる。」
「お父さんって結構立場上の人?」
「そう、かな?稼ぎも割とあるし、立場は上だと思う。」
「ふーん……じゃあブランドのしっかりした革靴がいいかもな。予算とかは?」
「予算は特に決めてないよ。でも、この前昴流くんが靴の値段教えてくれたでしょ?だから割と多めに持ってきた。」
「わかった。とりあえず何足か選んでくるから、それ見てどんなのがいいか言って。そこから似たようなの集めて決めよう。」
「うん、わかった。」
「そこ座って待ってて。」
店内に設置されたソファに座っていてもらい、昴流は倉庫に向かった。
「お、木之本くん。お客さん?」
「はい。俺の友達で。」
倉庫には在庫チェックをしていた内田がいた。
「へー!お友達の靴ってことはスニーカーとか?」
「いや、父親へのプレゼントらしいんで、ブランドの革靴を探してます。」
「なるほどね!それならいい靴が一昨日入って、A通路の1番の棚にあるから、それ持って行ってみる?学生にはちょっと高いかもしれないけど……」
「予算は結構あるみたいだし、何足か見せたいんでそれもぜひ。」
「うん、持って行っていいよ。」
言われたところにあった靴と、他にも何足か選び、それを持って京のところに戻る。
京から父親の話を聞きつつ、何度か相談を重ねてなんとか2足まで絞り込んだ。
「うーん、どっちもすごくいいなぁ。」
「迷う?」
「うん。形も今のと似てて履きやすそうだし、色もいい……値段も手が出る金額だし……」
「……あとは、キュンとするか、かな。」
「へっ?」
「……あー、忘れろ。」
「えっ、なんで?教えて欲しい。」
笑うでも、バカにするでもなく、真剣な顔をした京を見て、昴流は口を開く。
「靴とか服とか、迷った時はキュンとするかどうかで決めるんだよ。俺はな。買うか迷ったり、どっちがいいか迷ったら、それを履いたり、着たり、持ったりして、心が動いた方とか、キュンとしたら買うようにしてる。」
「なるほど……!それってプレゼントでも効果あるかな?」
「……多分な。」
ずっと昔、まだ小学生の頃。
昴流ら500円玉を握りしめて、花屋に行ったことがあった。
その日は母の日だった。
昴流は最初、花を1輪と、お菓子を買うつもりだった。
母親と一緒に食べるお菓子をだ。
しかし花屋に行くと、話を聞いた店主が500円でミニブーケを作ってあげる、と言ってくれた。
昴流はものすごく迷った。
すると店主はミニブーケをつくり、1輪の花の方も綺麗にラッピングして、両方を昴流に持たせてくれた。
ピンと来た方にしなさい、と。
昴流はミニブーケを選んだ。
心がふわっとした感じがしたから。
翔也が買ってきた大きな花束には遠く及ばなかったけれど、明希は昴流からのミニブーケを食卓に飾ってくれた。
明希が水を変えて大切にしてくれているのを見たときは、心がムズムズして、頬が緩んだ。
「……昴流くん?」
「あ、ごめん、決まった?」
「うん、こっちにするよ。」
京は靴の箱を抱えて、柔らかく笑っていた。
「ん、じゃあラッピングする。」
「うん、ありがとう。」
会計を済ませ、綺麗に包装して贈り物用の紙袋に入れて、京にそれを渡す。
「本当にありがとう。また連絡するね!」
「おう。」
京を見送り、昴流は店内に戻る。
ふと、明希がいつも履いている靴は、何年も変わっていないなと思い出した。
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