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〜明希side〜
18時
「ただいまー。」
珍しく外での仕事だった明希は、買い物も一緒に済ませていつもより少し遅くに帰宅した。
「昴流帰ってるのー?」
靴があったので声をかけたが、シャワーの音が聞こえる。
(あ、お風呂かな。)
お腹が空いているだろうし、急いで夕飯の支度をしようとキッチンに立つ。
「あれ。」
炊飯器のスイッチが既にオンになっていて、昴流が用意してくれたようだ。
明希は思わず頬を緩めて、おかずの支度をするために買い物袋から食材を取りだした。
*
「……おかえり。」
「うん、ただいま。お腹すいたでしょう。ご飯ありがとうね。」
「……ん。」
浴室から戻ってきた昴流は素っ気ないが、なんだかいつもとは違う気がした。
「昴流、なんかあった?」
「……なんで。」
会話に応じるのも珍しい。
別に、と返ってくることが多い中でのこの返し。やはりなにかあったのだろうか。
「いつもと少し違うから、気になって。」
「……部屋行ったの。」
「えっ?部屋?まだだけど……何かあった?」
「別に。」
(あれっ、会話終わっちゃった……なんだろう。部屋になにかあったかな?特にいつもと変わってないけど……うーん……?)
「……鍋、沸騰してる。」
「あっ、ほんとだ。」
考えこんでいると鍋の蓋がボコボコと浮き上がっていて、慌てて火加減を調節した。
「風呂、入ってくれば。火加減見てるから。」
「そう?じゃあ、お願いするね。」
なんだか本当に珍しいなぁと思いながら、明希はバスタオルや着替えを取りに部屋に向かった。
*
〜昴流side〜
不思議そうにしながら部屋に向かった明希を、昴流はこっそりと振り返った。
パタン、と扉が閉まる音がして、程なくしてバタバタと音が聞こえる。
「昴流っ、これ昴流でしょ?!」
「……なに、うるさい。」
「こんなの朝なかったもん!これ俺にくれるの?」
「……うるさいって。」
急に気恥ずかしくなって目を背ける。
「開けてみていい?」
「…………好きにすれば。」
リビングのソファに座り、明希が丁寧にラッピングを解いていく。
「すごい、オシャレな靴!ただのスニーカーじゃない、けど、革靴でもない!履きやすそうだし使いやすそう……!」
喜んでくれているようで内心ホッとする。
「でもどうしたの急に。」
「悪ぃのかよ。」
「いや!すごく嬉しいよ、ありがとう!嬉しいんだけど、そんなに安い買い物じゃないでしょう?バイト代なら自分のことに使いなさい?」
今、ものすごく京の気持ちがわかった。
自分の物の方が古くなっているのに、それより子どもの物をと親に言われると、お小遣いを使い切ってでもプレゼントしたくなる。
もちろん皆がそうとは限らないが、昴流は京と同じ気持ちになった。
「……俺の金なんだから、どう使おうと勝手だろ。」
(あぁもう、可愛くねぇな。)
素直に、古くなってたから気になったとか、お世話になってるからとか、言えたらよかった。
いつまでこんな反抗的な態度をとるつもりなのか、自分でも自分が嫌になる。
けれどなんだか引っ込みがつかなくて、どうもトゲトゲした態度をとってしまう。
(……ほんとに愛想つかされんぞ、こんなんじゃ。)
「……ふふ、そうだね。ありがとう。」
昴流の内心とは裏腹に、あまり気にした様子のない明希はにっこり笑った。
「もったいなくて履きたくないなぁ。でも皆に自慢したい!うちの息子が買ってくれたんですよって。」
「その程度であんま言うなよ、恥ずかしい。」
「いいじゃない!子どもからのプレゼントは嬉しいものなんですー。」
大事そうに箱を抱えて、明希が立ち上がる。
「大切に使わせてもらうね。」
特に返事をせず、昴流は鍋の方に目をやった。
明希はそれに何を言うでもなく、玄関に靴を置きに行った。
恐らく明日履くために出しておくつもりなのだろう。
そのせいで数十分後に帰宅した父、翔也がなにこれ!ずるい!俺も欲しい!と駄々をこね始め、明希には笑われ、昴流は呆れることになるのだけれど。
やはり自分からのものを大切にしてくれる明希に、昴流は久しぶりに心がムズムズした。
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